債券トークン市場が急拡大のからくり──強い米国債とドルで「ステーブルコイン2.0」はアジアを狙う
「ステーブルコイン2.0」で拡大した利息付き米ドルトークン
Ondoが開発した商品の2つ目は「USDY」で、「ステーブルコイン2.0」とも呼ばれる同社の基幹プロダクトだ。USDYの時価総額は今年4月頃に上昇し、6月には3億ドルを突破。まもなく4億ドル(約590億円)に迫ろうしている。 1USDYの価格は現在、$1.0547で、年間利回りは5.35%。米国内と米国在住者への販売はしていない。米ドルと同等の価値を持つトークンで、その価値を裏付けるための資産バスケットには短期国債や銀行預金が積まれている。 ユーザーが利息を受け取れる設計に加えて、Ondoは従来の金融の世界で広く用いられてきた機関投資家保護の仕組みをUSDYに組み入れることで、USDTやUSDCなどのステーブルコインとの差別化を図ってきたと、前出のイアン・デ・ボーデ氏は強調する。 実際、USDYがブロックチェーン上で展開される金融サービス(DeFi)で利用されるケースは増えている。決済通貨のような目的で使われたり、USDYを担保にレンディング(貸出)に用いることも可能だ。 もちろん、時価総額では約1185億ドル(約17兆円)のUSDT、約351億ドル(約5.1兆円)のUSDCと比べると、4億ドル弱のUSDYは桁違いだ。しかし、金利上昇の局面で利息を取得できるトークン化商品に対する需要が伸びたことで、USDYの時価総額は短期間で増え続けてきた。 Ondoは米ドル連動商品の需要が底堅いアジア市場も重要視している。 「RWAのトークン化は、韓国や日本、香港、シンガポールを軸にした東南アジアが枢軸になってくる。それぞれの市場に合わせたアプローチを検討していきたい」(イアン・デ・ボーデ氏)
アメリカ建国の父の名はトークンの名称「BENJI」でも健在
「貯蓄と投資を行うときに一番大切なのは、倹約と用心深さである」 アメリカ合衆国・建国の父で知られるベンジャミン・フランクリンが残した言葉に惚れ込んだという創業者が、1940年代に「フランクリン」の文字を社名に使って作ったのがフランクリン・テンプルトン。今では1.6兆ドル(約234兆円)の資産を運用する米国金融界を代表する企業だ。 企業ロゴの隣にはベンジャミン・フランクリンの似顔絵が載り、株式上場の際に与えられる証券コードは「BEN」と、フランクリン・テンプルトンと言えばベンジャミン・フランクリンの印象が強い。正式な企業名は「フランクリン・リソーシズ(Franklin Resources Inc)」。 トークン化商品を売り出すために開発したスマートフォンアプリも「Benji(ベンジ)」で、建国の父の存在はデジタルのビジネス領域でも健在だ。 ブラックロック同様に、老舗の資産運用会社フランクリン・テンプルトンも、ブロックチェーンを活用して、従来の金融資産をトークンにしたデジタル商品を開発してきた。 米国政府が発行する償還期限が1年以内の割引債などを中心に組み入れたマネーマーケットファンド(MMF)を作り、ファンドの販売単位である1口を1トークンとしてスマホアプリで売り出す。 トークンとアプリの名前は共に「Benji」で、ユーザーはアプリの「Benji」でトークンの「Benji」を購入する。1Benji=$1を維持しながら、一定の利回りを目指すというものだ。 2023年、フランクリン・テンプルトンが開発したMMFファンド「Franklin OnChain US Government Money Fund(FOBXX)」は、パブリックブロックチェーンを使って取引を行う、米国で正式に登録された初の投資信託となった。 FOBXXは、イーサリアム(Ethereum)やイーサリアムの拡張チェーンのポリゴン(Polygon)、ステラ(Steller)、アバランチ(Avalanche)などのブロックチェーンに対応し、多くのユーザーへのアクセスを増やしてきた。 FOBXXの資産残高は、昨年3月頃に著しく増え、同年6月には3億ドルの大台を超えた。2024年に入り、増加のペースは鈍化したものの、資産残高は現時点で約4億ドル(約580億円)に達している。 一方、国民の「貯蓄から投資へ」を促し、ブロックチェーンを基盤技術とする「Web3」を国家戦略にする日本では、BUIDLやUSDY、FOBXXのような、日本円建てのトークン化ファンドは存在しない。今年1月に米国で初めて上場されたビットコインETF(上場投資信託)ですら、直接購入することはできない状況だ。 ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)に関係する法律や規制の整備においては、日本は先進国の先頭を走ってきた。デジタルネイティブの若い世代の人たちがサクサクと利用できる、安全で魅力的なトークン対応のアプリやトークン化資産運用商品は、はたして国内の金融機関やスタートアップから生まれてくるだろうか。 |文:佐藤茂|画像:Shutterstock
CoinDesk Japan 編集部