閉ざされた北方領土交渉 平均88.5歳の元島民試練 「命あるうち返還困難か」
松本 創一
日本の北方領土返還に向けた政策は身動きが取れない状態が続いている。ウクライナに軍事侵攻したロシアが日本の制裁に反発し、日ロの平和条約交渉は対話の窓口さえ閉ざされた。厳しさを増す国際環境の狭間で、平均年齢88歳を超えた北方領土の元島民たちは試練の時を迎えている。
表情曇らせる北方領土元島民
知床連峰の麓、北海道東部の羅臼町。北方領土を間近に見渡せるこの街に住む、国後島出身の脇紀美夫さん(83)は「ロシアのウクライナ侵攻後、北方領土返還交渉は全く進まなくなり、北方領土の元島民にとってはトンネルの出口を見失った感覚だ」と吐露する。 脇さんは北方領土元島民らによる団体「千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)」の理事長を昨年5月まで8年間務めた。今年2月7日、「北方領土の日」を記念した根室市での「住民大会」にも参加し、750人の参加者とともに「北方領土を返せ!」とシュプレヒコールを繰り返した。
北方領土の日は、1855年に千島列島のウルップ島と択捉島との間に国境線を引いた「日ロ通好条約」調印の日に由来する。「住民大会」は地域最大級の返還運動の催しだが、根室市によると今年の動員は昨年比100人減。ロシアのウクライナ侵攻後、日ロ間の対話が滞るようになった現状に元島民の表情は曇る。 同じ2月7日、都内では政府などが「北方領土返還要求全国大会」を開いた。岸田文雄首相は「ロシアのウクライナ侵攻によって日ロ関係は厳しい状況にある」と前置きしたうえで、「政府として領土問題を解決し、平和条約を締結する方針を堅持していく」と返還実現への決意を語ったが、具体的な展望としては「北方墓参など四島交流事業の再開が最優先」と元島民の高齢化などに配慮を示すにとどめた。 北方領土は、北海道東部の根室地方の東側に広がる択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島からなる。面積は最大の択捉島が鳥取県とほぼ同じ3168平方キロメートル、2番目の国後島は沖縄本島を超える1490平方キロメートルある。 日本がポツダム宣言を受諾した後の1945年8月末から9月上旬にかけて、旧ソ連軍は北方四島を占領。当時の状態が現在も続いている。これに対し、日本外務省は「1855年の日ロ通好条約で択捉島とウルップ島の間に国境が確認された。北方領土は一度も他国の領土となったことがない、日本固有の領土」と位置付けている。