すべてが変化したが、何も変化していないともいえるーー#MeTooムーブメントから3年、きっかけを生んだ記者が語る
見えていない問題を議論し解決することはできない
今回のアメリカ大統領選挙では、共和党のドナルド・トランプ氏と民主党のジョー・バイデン氏が次期大統領の座を争った。二極化が進むアメリカでは、税制をはじめ、医療制度、移民政策などの様々な分野で国民の意見が大きく分かれている状況だ。 ――選挙結果を受けて、セクハラや性的暴行問題の解決を含め、女性を取り巻く環境は今後どのように変化するでしょうか。大きな影響は受けないという意見も聞かれます。 「政治家にまつわるセクハラ問題は、政敵を攻撃するための武器として残酷なまでに利用されました。今アメリカは著しく二極化しているため、その傾向がさらに激しい。セクハラ問題は、民主党でも共和党でも互いを政治的に攻撃する『聖戦』へとすり変わっていきます。当の被害者の女性は忘れ去られてしまいます」 「一方で、前進を示すサインも数多く見られます。ワインスタインの記事がきっかけで、セクハラ問題に関する沈黙が破られ、#MeTooムーブメントへと発展しました。アフリカ系アメリカ人の黒人男性、ジョージ・フロイドさんが警官に命を奪われた事件によって、あらためて人種差別が浮き彫りになり、ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)の運動が勃発しました。ジェンダーや人種という垣根を越えて、多くの人々がこうした社会問題について共に語り合っています。こんなことは、かつては想像もし得ないことでした」
「悲観視せざるを得ない要素も多いが、楽観視すべき要素も多いと思います。未来にどんな変化が起こるのか誰にも正確には分かりません。状況を憂えるよりも、社会にはびこる問題について、政治家や活動家など様々な分野の人々が自分の役割を果たしていくことが重要です。ジャーナリズム界にいる私たちは、『真実を明るみに出して報道する』というジャーナリストとしての役割を果たしていく。見えていない問題を議論し解決することはできません。だからこそ議論を喚起し社会に変化を起こすきっかけを作るために、問題を見えるようにすることがジャーナリストの役割だと思っています」