齋藤元彦再選「SNSで若者がデマに騙された」は本当か? 新聞・ワイドショーが報じない「井戸県政の宿痾」という大問題
偶然に偶然が重なった
私は騒動の最初期に「告発文書」現物の文面を入手して読んでいたので、そのうえで率直に言わせてもらうと、かなり好意的に見積もっても、その内容は突拍子のない記述が含まれていると言わざるを得ないものだった。しかもこの文書は完全に匿名であり、筆者自身が齋藤氏からハラスメントなどを受けたと告発する内容でも、信頼できる根拠を示して齋藤氏の不正を訴えるものでもなかった。これを齋藤氏側が「公益通報」として処理せず退けたのを、「不当なもみ消し行為」と一面的に糾弾するのは無理がある。 また百条委員会もその中継映像のほとんどすべてを視聴したうえで言わせてもらうのだが、結局あれほど苛烈に報道されていた「おねだり」と言われるような「金品を私利私欲でせしめる行為」は確認されておらず、また「パワハラ」についても、直接的な物的証拠は現時点で一切出てきていないのが現状だ。そうした疑惑のほとんどが伝聞ベースである。また齋藤氏自身も認める「強く叱責したことがある」というのも、その行為自体がパワハラと断じられるかについて議論の余地がある。 「五百旗頭先生(※神戸在住の政治学者、今年3月に死去)は齋藤の嫌がらせのせいで憤死したのだ!」という無根拠な言説から始まる「告発文書」を、公益通報として扱うことが難しいのは県庁や県議会内部のだれもが薄々わかっていただろうし、「おねだり」や「ハラスメント」についての裏がはっきりと取れていない状態であったこともわかっていたはずだ。それでも県議会は全会一致の不信任で齋藤氏を失職させた。私には「ゴリ押し」にしか見えなかった。 地元のマスコミが、ワイドショーや夕方の情報番組で流す定番ネタが尽きたから報じた「お騒がせニュース」が、当人たちの想像以上にSNS上で面白おかしく取り上げられる「炎上案件」になった。そこに、齋藤県政を快く思わない人びとが「好機」と見て全力で乗っかり、兵庫県政が9ヵ月停止するほどの事態にまで戦火が拡大してしまった。だれが陰謀を企てたわけでもなく、だれかが背後から弓を引いたわけでもなく、不幸な形で偶然に偶然が重なった結果として「告発文書騒動」が起こったのだ。 一方、ワイドショーの連日の報道とは裏腹に、有権者は今回の県知事選で、意外なほど冷静に事態を見つめていたようだ。後編記事【齋藤元彦再選で「有権者は愚か者ばかり」と言いたがる「知識人」が続出する理由…彼らが溺れる、もう一つの「ネットde真実」】でひきつづき考察する。
御田寺 圭
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