絶望を希望へ、ギャンブル依存症(下) 人格否定でなく対策を 「完治しない」が「必ず回復する」
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の2023年度調査によると、依存症当事者のおよそ8割が20~30代。スマートフォン1台でいつでもギャンブルができ、クレジットカードや電子マネーなどさまざまな支払いが可能となったことで、借金平均額は19年の550万円から23年には855万円へ増加した。年齢制限で出金できない高校生へアカウントを売買する業者も存在するという。21年からはオンラインカジノの相談が急増し、闇バイトへの関与など犯罪に至るケースも増えている。 ■自助グループ 宇都宮駿さん(34)=東京都=は妻の美貴さん(33)と離れ、山梨県の施設で治療を始めた。次第に「自分が病気である」と認められるようになり、約1年後に東京の施設に移り職場復帰。2年後には美貴さん、6歳の長女と再び暮らすようになった。 駿さんは現在、「ギャンブル依存症問題を考える会」当事者支援部の一員として活動している。「誰かの手助けをすると自己中心的な自分を抑えることができ、自尊心の回復を感じる」という。「ギャンブル依存症は完治しない病気」とした上で「自分と向き合い続けることが重要。回復は奇跡。きょう一日を大切に過ごしていきたい」と語った。 美貴さんもNPO法人ギャンブル依存症家族の会の一員として活動し、各地の家族会の立ち上げや経験談の発信にも取り組んでいる。「夫を感情のごみ箱にせず、怒りは仲間と分かち合う。自分の新しい生き方に出会った」。 ■依存症は誰にでも ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表は「依存症はだれでも発症する可能性がある。にもかかわらず、意志が弱いなど個人の資質の問題だと言われ抜本的な対策がなされていないことが問題」と指摘する。動画投稿サイトで散見される広告や「ポイントを使って無料で賭けられる」などギャンブルを始める敷居の低下を危険視し、「人格否定ではなく、依存症対策を進めようという方向に向かってほしい」と訴える。 ギャンブル依存症の治療では認知行動療法が中心となり、2020年には健康保険の適用が始まった。依存症治療に長年携わる医療法人森口病院(鹿児島市)の田中大三院長は「ギャンブルに負けると金銭を損したことに加え、自尊心を傷つけられたと感じる。依存を続けてしまうのは他人に頼れず、自分の心の痛みを自分自身で治療しようとする行為から」として「誰かとつながることで必ず回復する」と呼び掛ける。 ◇ ◇ 鹿児島県・奄美群島在住者からの相談について、全国ギャンブル依存症家族の会・鹿児島の松元英雄さんは「20~30代が多く、オンラインカジノ関連の相談が増えている。一方で、相談していることが周囲へ知られるのを過剰に恐れたり、相談は恥ずかしいことだと思ってしまったり、氏名や連絡先を明かさずに電話を切ってしまうことも多く、支援につながりにくい」と話す。 オンラインでフォーラムに参加した知名町社会福祉協議会は、23年に住民から相談を受けたことをきっかけに依存症問題への取り組みを始めている。8月には同院と連携し、沖永良部島でセミナーを開催する。