【マラケシュ国際映画祭】「HAPPYEND」が若い観客から好評価、最高賞はパレスチナ人監督による家族の物語 審査員長ルカ・グァダニーノら豪華ゲストが参加
第21回マラケシュ国際映画祭で、日本映画として唯一コンペティションに参加した空音央監督の「HAPPYEND」が上映され、若い観客を中心に大きな反響を得た。スケジュールの都合で参加できなかった空監督に代わって、ダブル主演の栗原颯人と日高由起刀のふたりが参加。公式上映後は、地元の映画学校に通っている生徒などに囲まれ、写真をせがまれたり感想を伝えられる一幕も見られた。映画学校1年目というある生徒は、「友情が社会のさまざまな要素に影響を受けていくところに胸が痛んだ。とても共感できる物語だった」と話した。 最高賞のエトワール・ドールは、パレスチナ人監督スカンダル・コプティによる家族の複雑な物語、「ハッピー・ホリデーズ」(ベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門で上映され、脚本賞を受賞。東京フィルメックスのコンペティション部門でも上映された)に奪われたものの、今回初めてアフリカ大陸を訪れた栗原と日高の両者は、エキゾチックな街の映画祭を堪能した様子。ふたりに現地で感想を訊くことができた。 日高「僕らも今年から本格的に俳優活動を始めたばかりなので、どういう映画祭があるのかもよくわからない状況で、こんな綺麗な街で映画祭があるんだ、と来る前からふたりで話していて。プライベートでも行ったことがないようなところに行けること自体にワクワクしていました」 栗原「初めてのアフリカなので、観客の反応も本当に想像がつかなくて。今回はベネチア国際映画祭や釜山国際映画祭と違って僕らふたりだけですし、ステージも広く感じて緊張しましたが(笑)、とても反応が良くて嬉しかったです。スタンディング・オベーションと、指笛や歓声が聞こえたり、終わってすぐ、直接その場で観客の方が感想を伝えてくれて感動しました」 日高「僕らと同じぐらいの年頃の観客の方に気に入って頂けて、勇気をもらえた気がします。ベネチアのときは、(栗原)颯人は一日遅れで公式上映に間に合わなかったんですが、今回はふたりで会場のお客さんの熱量を味わえたことに感動しました」 栗原「日本のことに興味を持ってくださっている方も多いという印象でした。日本の教育や文化についても訊かれました」 日高「どういう背景があってこの映画に参加しようと思ったのかとか、内容に沿ったアイデンティティの話題も尋ねられました。作品を通して日本のことを知ってもらえたり、もともと興味のある方が本作を通してより日本文化に触れようと思って下さるのは、僕らにとってもすごく嬉しいことでした」 栗原「そういえば音央さんの友だちという方にも何人かお会いしました」 日高「あるときは、パレスチナの監督と俳優さんと車で一緒になったことがあって、『僕らの監督がパレスチナを支援しているし、僕らも支援している』と話したりして。そんな風に横の繋がりを得られるのが、海外映画祭の良さなのかなと実感しました」 今年21回目を迎えたマラケシュは、ゲスト陣が豪華で、審査員長にルカ・グァダニーノ、審査員メンバーにはアンドリュー・ガーフィールド、ジェイコブ・エロルディ、「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」のアリ・アッバシ監督など。また映画祭名物の、キャリアを振り返る「カンバセーション」部門では、ティム・バートン、アルフォンソ・キュアロン、ウォルター・サレス、トッド・ヘインズ、モハマド・ラスロフ、フランソワ・オゾンらの顔ぶれが並んだ。さらに今回功労賞を授与されたデビッド・クローネンバーグとショーン・ペンも、それぞれトークをおこない、人気を博した。 映画学校のあるマラケシュは映画教育も盛んである。映画祭ではとくに地元モロッコやアラブ、アフリカの若手フィルムメーカーをサポートする「アトラス・ワークショップ」も開催されている。7年目を迎えた今年は、「ザ・バイクライダーズ」のジェフ・ニコルズ監督が後援役を務めた。27本の企画が取り上げられるとともに、配給業を支援する「アトラス・ディストリビューション・アワード」も開催している。(佐藤久理子)