【ネタバレレビュー】東京をエグりまくる“●”、ナン丸に訪れる最大の試練!クライマックスへ一直線の「七夕の国」6&7話
数々の漫画賞に輝いた「寄生獣」や「ヒストリエ」など次々に話題作を生みだしている岩明均の同名コミックを実写ドラマ化した「七夕の国」。ディズニープラス「スター」で独占配信中の本作は、しきたりに縛られた閉鎖的な町を舞台に、特殊な能力を持つ人々が運命に導かれるように交差していくミステリー。どんなものにも小さな穴をあけられる、あまり役に立たない超能力を持つ大学生・ナン丸が、先祖が暮らしていたという田舎町・丸神の里で思いがけない事件に巻き込まれていく。主人公ナン丸こと南丸洋二を演じるのは、映画やドラマで数々の主演作を持つ細田佳央太。藤野涼子や上杉柊平、山田孝之ほか演技派、実力派が集結し、濃厚な人間模様を展開する。 【写真を見る】逃げられるはずがない…絶望感を禁じ得ない超巨大な“●”が東京を覆う! MOVIE WALKER PRESSでは、そんな「七夕の国」の全話レビューをお届け。本稿では、第5話までで役者がでそろい、いよいよ後半戦に突入した第6話、第7話をライターの神武団四郎がレビューする。 ※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。 ■若き頼之、東丸兄妹になにがあったのか?一族の過去が明かされる 全10話で構成される本作の第6話で描かれるのは、幸子(藤野)や高志(上杉)が幼少時代の物語。これまで点として描かれてきた人々が、ひとつの線で結ばれていく。幸子の母、東丸由紀子(朝比奈彩)は、息子、高志の“手がとどく者”の能力を開花させるため、本家である丸神家の頼之(山田)のもとで修業をさせることにした。ところが、かつて由紀子が頼之を慕っていたことを知る夫は嫉妬心から高志につらく当たるようになっていく。父(忍成修吾)から貶され続けた高志はストレスから“●(まる)”で幸子を虐待しはじめ、父に瀕死の重傷を負わせたのを機に里を追われてしまった。すべての責任を感じた由紀子は自ら命を絶ち、その直後に神官だった頼之も里から姿を消した。 枝葉のエピソードやキャラクターを整理しながら、完コピと呼びたくなるほど原作を尊重して展開してきた本作だが、由紀子は原作にはないドラマのオリジナルキャラクター。彼女によって幸子、高志、頼之らの立ち位置や、丸神の里のしきたりが人々になにを強いてきたのか、それぞれのキャラクターの悲哀がわかりやすく解説されている。謎めいた人物相関の伏線回収に加え、祖母が幸子に台所で甘酒をふるまうやり取りなど、さりげない出来事がすべてつながっていることも明かされた。 さらに回想シーンには、幸子が「普通の人っぽかった時」と形容した若き日の頼之が登場!特殊メイクで後の片りんをにじませながら、山田孝之がほぼ素顔で頼之を演じている。穏やかで面倒見がいい青年時代の姿が、感情を見せず殺人マシンとして暗躍する頼之が抱える心の闇深さを示唆。現代パートで、再会した高志から殺し屋をしている理由を問われた時に「人の心に土足で踏み込んだ挙句、今度は知らん顔」をしている者への復讐のようなものだと明かしたが、彼が自分の力を使った凶行を見せつけたい相手が誰なのか、新たな謎が生みだされた。 だが、ひとつ明らかになったことも。いまだ姿を現さない丸神教授(三上博史)から届いた手紙に隠されたヒントを読み解き、江見ら丸神ゼミのメンバーは、丸神の里で行われている「七夕祭り」の開催日程がどのように決まっているのか。その理由に気づくことができた。それでも「祭り」にまつわる謎は残っており、今後里に隠された秘密がどのように明かされていくのか、謎解き展開にも期待が高まるところだ。 好奇心旺盛なナン丸の後輩、亜紀(鳴海唯)をめぐる物語も動きだす。超能力の秘密を追って高志のセミナーでバイトをしていた彼女は、事情聴取を受けたのを機に知り合った気弱な刑事、佐藤(石田法嗣)を引きずり込んで頼之たちを追跡する。ジャーナリスト志望で、成果に飢える彼女の無謀さがサスペンスを盛り上げていく。そんな亜紀を演じているのは「どうする家康」で注目された鳴海唯で、生意気で危なげだけど憎めないキャラクターに仕立てている。佐藤は第3話で“●”による国会議員暗殺の現場にいた警備担当者。これまで意味ありげに要所で顔を出していたが、ここから彼もストーリーに絡んでいく。頼之を追っていた2人は、彼をリクルートした武器商人、増元(深水元基)に見つかってしまい囚われの身に。その安否の行方は第7話へ持ち越されることになる。 ■“●”が東京を恐慌の渦へ陥れる!ナン丸も自身と向き合う重要局面に ドラマが大きく動きだす第7話は、頼之が巨大な“●”を操り東京都庁舎の上部を消し去る衝撃的なシーンで幕を開ける。激しい閃光やパンッという乾いた破裂音と共に、曲線を描いて切り取られた奇妙な姿をさらす都庁舎。それを見た人々が新宿の街を逃げまどうパニック描写は、丸神の里と大学で繰り広げてきた物語をいっきにスケールアップさせていく。これまでフィクサーに命じられるまま暗殺を繰り返してきた頼之だったが、「悪夢を終わらせる」とつぶやきながら自らの意思で旅客機や豪華客船を標的にした “無差別テロ”を慣行。日本を震撼させる存在となっていく。彼の矛先はこれからどこに向かうのか、戦慄を禁じ得ない。 ナン丸自身も重要な局面を迎えていく。前回で飲み会から帰宅したナン丸は、夢の中で暗闇の中を落ち幸子と遭遇する夢を見た。単に酔って悪夢を見ただけなのか、それとも彼も “窓を開く能力”の持ち主なのかは曖昧だったが、その後も同じ夢を繰り返し体験。頼之と同じくナン丸も、“手がとどく者”であり“窓を開く者”でもあると判明した。超能力を封印し、自分の手を使う仕事を始めた直後に覚醒した能力にどう対応していくのか、二転三転していく展開に引き込まれる。 頼之の都庁攻撃を受けて東京都内に緊急事態宣言が発令され、ナン丸のバイト先も政府から休業勧告が通達される。パンデミックによる活動自粛がまだ記憶に新しい現在、無人と化した商店街で1人自転車をこぐナン丸や、自宅待機を命じられ「どうやって食ってきゃいいんだよ」と途方に暮れるバイト先の先輩の姿は胸に刺さるものがある。 一方、頼之の真意を測れないまま行動を共にしている高志。今回は彼の内面にもスポットが当てられた。突然ナン丸の部屋を訪れ幸子への詫びの言葉を託した高志は、ナン丸から自分を気遣う妹の真意を聞かされ遠くを見つめるような表情をして去っていく。序盤こそ高圧的な態度やチンピラの足を切断するなど危険な空気をまとっていた高志だが、新技能啓発セミナーをめぐるナン丸との対立以降は、複雑な内面をうかがわせる描写が増えていた。幸子への想いを表情だけで語った今回は、『ディア・ファミリー』(公開中)や「ミス・ターゲット」「幽☆遊☆白書」など硬軟取り混ぜ多彩な役を自在に操る上杉のうまさが際立つエピソードでもあった。 そんな高志からの情報提供もあり、誘拐された亜紀、佐藤の監禁場所へ救出に向かうこととなったナン丸。ドラマオリジナルのエピソードとなるが、2人を守るため、ここで彼は初めて人間に対して“●”の能力を使う。亜紀の必死の制止に我に返るが、ともすれば頼之のように、人を殺してしまいそうになるのだ。これは、緊張感走る局面においても常に楽観的だった、原作におけるナン丸像との決定的な違いといえるだろう。これまで“●”の平和的利用を模索していた彼が、能力の恐ろしさ、それを持つ自身の危険性を身をもって実感する。この描写は、今後の物語の展開においても重要な意味を持ってくるはずだ。 そして、一連のテロ行為を増元に諫められると、その目的について、どこまで“●”をコントロールできるかの実験でもあったと明かした頼之。フィクサーに決別を宣言したあと、直径3kmという超巨大な“●”を使ってフィクサーの住む住宅街をエグる凶行に出る。広大な街の真ん中にぽっかりと丸い穴が開いた様を上空からとらえた映像は、大友克洋の「AKIRA」のグラウンド・ゼロを想起させる壮大さ。無数の犠牲者を出した頼之が、政府により日本の敵と認定されることを匂わせながら第7話は幕を閉じていく。そんななか、再び隠された謎を解き明かすため、丸神の里に旅立つナン丸たち。頼之と増元の対立軸も明確化するなど、クライマックスに向けスケール、ストーリーともに盛り上がりを予感させる「七夕の国」から目が離せない! 文/神武団四郎