「焼酎王国」鹿児島県、魅力発信に新たな情熱…ユネスコが認めた「伝統的酒造り」で香り広がる12系統
鹿児島県産の本格焼酎が熱を帯びている。その風味はサツマイモ本来のコクと甘みを生かしたものから、豊かな香りが特徴の「フレーバー系」まで多彩だ。昨年12月、焼酎や日本酒などを造る技術「伝統的酒造り」が国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。関係者たちはこの好機を逃すまいと、「焼酎王国かごしま」の名にかけて魅力の発信に情熱を注ぐ。 【図】本格焼酎の多様な風味
三島村の公設公営の焼酎蔵
昨年12月6日夜、完成したばかりの芋焼酎「みしま村 荒濾過」を味わえる“焼酎電車”が鹿児島市内を走った。車窓からゆったりと流れる景色を楽しみながら、愛飲家たちは約2時間、昔ながらの芋のにおいとまろやかな甘みを感じる新酒に酔いしれた。
この焼酎は、竹島・硫黄島・黒島の三島からなる三島村で造られた。人口は約340人。全国でも珍しい公設公営の焼酎蔵「みしま焼酎 無垢の蔵」が黒島内にある。特区を活用し、年間10キロ・リットルまで、原料を村内で賄う条件のもと、2018年から製造に取り組む。
銘柄は二つ。ともにサツマイモ「紅乙女」と黒島の軟水を使う。昔ながらの蒸留方法を用い、添加物も使わない。黒島産のでんぷん価が高いイモを使った「みしま村」は口当たりが柔らかい。硫黄島の火山灰由来の土で育った紅乙女を使う「メンドン」は、芋の香りや甘みが強い。その名は18年、無形文化遺産に登録された仮面神「メンドン」にちなむ。
無形文化遺産に「伝統的酒造り」が登録された今、国内外に焼酎を発信するまたとない好機を迎えている。村ではさっそく、主に贈答用としてメンドンの1合瓶(180ミリ・リットル)を売り出す計画が動き始めた。
「『MISHIMA』として世界のコンテストで最高賞を獲得するような焼酎を目指したい」。杜氏の坂元巧斉さん(33)は夢を語る。
反撃許されない来訪神メンドン
旧暦の8月1、2日、硫黄島で行われる「八朔太鼓踊り」に現れる来訪神。真っ赤な顔に渦巻き模様が描かれた大きな耳、横長の目玉が特徴で、かやの蓑をまとい、踊りの邪魔をしたり、観客を追いかけたりする。木の枝葉でたたかれると、邪気が払われるとされる。メンドンの行いは「天下御免」で、反撃することは許されない。