震災に襲われた能登半島、それでも「同人誌」はまた作られた…石川県内唯一の「同人誌印刷所」で起きたこと
大災害を前にして、同人誌というメディアに何ができるのか。今回は、能登半島でそれを考えてみたい。(文化部 石田汗太)
チャリティー同人誌
金沢市の石川県立図書館で6月29日、能登半島地震チャリティー同人誌「波の花 風吹く」についてのトークイベントが開かれた。語り手は石川県在住の小説家、紅玉(こうぎょく)いづきさん、上田聡子さん、編乃肌(あみのはだ)さんの3人。75人のファンが聴き入った。
紅玉さんが「一緒に同人誌を作りませんか」と、上田さんと編乃さんを誘ったのは震災の3日後、1月4日だった。「被災者になってしまった私たちだけれど、ただ支援を受ける側でいいのか。私たちは本を作ることができる。同人誌なら今すぐに、今あることを伝えられると思ったんです」と紅玉さん。
「波の花 風吹く」は、5月に東京ビッグサイトの即売会「コミティア148」で初売りされた。掲載小説は3編。輪島市で被災した上田さんは、輪島塗の奉燈(ほうとう)「キリコ」が舞う輪島大祭を詩情豊かに描き、編乃さんは能登の高校生の日常を、紅玉さんは能登を流れる河川が人の姿で現れるファンタジーを書いた。いずれも、復興への静かな願いが胸を打つ佳品だ。
「10年ほど前から個人誌を作っています。自分の手で売れるのが魅力」と上田さん。編乃さんは「初めての同人誌。本を作るのってこんなに大変なのかと思いました」。紅玉さんは「作品は一人で作るものだけれど、同人誌作りは人の輪ができるのがいいですね」と話す。
刊行が5月になったのは、同県珠洲(すず)市の「スズトウシャドウ印刷」の営業再開を待ったからだ。県内唯一の同人誌印刷所も、震災で大きな打撃を受けた。
震災が「印刷」に与えた影響
翌30日、金沢市からレンタカーを3時間走らせて珠洲市に着いた。道は所々ひび割れ、倒壊したままの家屋を何軒も見た。
「地震直後は会社を閉めるつもりでした」と、スズトウシャドウ印刷取締役の平野真由美さん(47)は話す。激しい揺れで大きな印刷機械がいくつも倒れた。「機械の損傷は幸い軽かったのですが、もっと大きな問題がありました」