「虎に翼」桂場役・松山ケンイチが“団子”に込めた思いとは?
――尊属殺の裁判前に航一(岡田将生)が鼻血を出して訴え、桂場の心境に大きな変化をもたらすシーンがありますが、このシーンを演じられての感想を聞かせてください。 「岡田くんが演じる航一は、表面上は桂場に寄り添っているようなキャラクターではあるんですけど、それでも航一は、自身の意見をのみ込んでいるような状況が結構あったんですよね。それは演技を見ていても感じることですし、桂場自身も気付いていることではあるんですけど。そんな中、最後の最後で航一が鼻血を出すのはすごく面白いですよね。もし鼻血を出さなかったら、桂場は航一も切り捨てるぐらいの強さは持ち続けていたと思うんです。けども、航一が鼻血を出したことで、刀を構えて振り下ろす直前で、一瞬止まって素に戻った。刀を振り下ろさなかったのが、すごいなと思って。桂場の中にも、穂高先生の思いを完遂させたいという思い、最高裁長官の任期が差し迫っている焦りだったり、やりたいことだったり、いろいろなものがある中で、自分の意見すらも切り捨てて、最終的には司法の独立をするための動きをしていたわけですけど。今、目の前に変えることができるチャンスがあるっていうことを、改めて航一やトラちゃんに教えてもらって、自分の中で大事に思っていた部分は別に消す必要もないっていうこと。桂場自身の生き方、かつての考えみたいなものも肯定してもらえたというか。桂場はもう独走しているので、今は肯定してくれる人がいないですからね…。そういうところがすごく響いた、素晴らしいシーンでした」
――視聴者や、SNSのフォロワーからの感想で印象に残っている言葉はありますか? 「僕は小道具を使うのがすごく好きなんです。いろいろな表現ができると思って現場で遊んでいるんですけど、『誰も気付かないだろうな』と思っていたものが気付かれていて。すごいなと思う一方、怖いなとも思いました。画面に写る全てが表現につながってしまうので。指先まで何を表現するべきなのか考えさせられました。体全体で役を表現することの怖さや大切さは、SNSの皆さんの発信の中から感じることがありますね」 ――桂場は普段仏頂面で、意外なところでニヤっと笑ったりするすごく面白いキャラクターですが、桂場を演じたことで、何か得たもの、いい経験になったと思ったことがあれば教えてください。 「脚本と演出、あと共演者の方々の受けで、桂場を面白くしていただけていると思うのですが、仏頂面が基本の形なので、そこからどう表現していくのかは常に考えていて。桂場は自分の心情を説明するような人でもなくて、最初の頃は『女性は男性より何十倍も勉強しないとダメだ』みたいなことを言っていますし、ずっとあおっているんですよね。それがある意味背中を押しているんですが、桂場はそういうふうにしか表現できないんだろうなと。でもそれだけだと、表現の幅が狭くなってしまうので、仏頂面をどこまで崩して表現するかは常に探っていましたね。表情の代わりに、手や他の部分で表現できることもたくさんあるので。今回は、団子もありましたし。桂場は、団子を食べようとしている時にトラちゃんに話しかけられると、無視して食べるわけでもなく、かといって団子を一度置いたりはしないんです。団子を置けばいいんですけど、置かないんですよね。団子を優先するのか、トラちゃんの話を優先するのか迷っているんです。団子一つでどういう人間性なんだろうっていうのは、見ている方にも伝わるじゃないですか。そういうことが今回いろいろ試せたんです。本当にいろいろなことをやらせていただいて、現場の皆さんには本当に感謝しています」