指導者育成に新たに導入された「コーチデベロッパー」の役割。スイスで実践されるコーチに寄り添う存在
指導者が常に向上心と“問い”を持つための存在
自分一人の解釈や視点だけで問題を抱えるのではなく、相談をしたり、いろんな人の力を借りながら、無理なく問題と向き合えるようにする。これは日常生活においても大切なことだろう。例えばドイツの学校では小学校から少ないながらもソーシャルカウンセラーがいて、問題があったり、悩みがある子どもたちが相談することができたりする。先生と折り合いが悪いとか、クラスメイトと問題があるとか、家でストレスがあるとか、そうした話し相手としても機能している。 話を聞いてもらえる、問いかけてもらえるということがもたらす力は大きいとゲルトシェンは力説する。 「コーチデベロッパー育成過程を受けた参加者の80%以上が、その内容に高い満足感を持ち、サポートを受けた90%以上の指導者がポジティブなフィードバックを残しています。オープンに自分の心を言葉にすることで、もっと成長できる、もっと改善できる、もっとシンプルになる、もっと楽しくなる。そのような可能性を解放できるチャンスがあるという認識を持たせてくれるコーチデベロッパーのような存在は、これからの社会において間違いなく重要なファクターになってくるのではないでしょうか?」 日本における環境はどうだろう? サッカーの指導者が、子どもたちが、問題を一人で抱え込まない環境があるだろうか。悩みを打ち明けられる人はいるだろうか。いないのであればサッカー協会やクラブや学校や会社、地域社会の中に話を聞いてくれる存在がいるのだろうか。準備しようとされているだろうか。 自分の弱さや苦手と向き合うことは誰にとっても心地いいものではない。自分をさらけ出すことも簡単なことではない。だから、自分を明かすための第一歩を踏み出すためには勇気がいることだろう。勇気を持つために意志が必要で、過去の自分を超えるためには覚悟がなければならない。でもそうしたプロセスを丁寧に健全に踏める環境が、これからの社会にはこれまで以上に必要なのではないか。 コーチデベロッパーの存在は、指導者が自分の殻に閉じこもらず、そこから一歩足を踏み出す助けとなり、指導者が常に向上心とともに「どうすればもっとよくなるだろう?」という問いを自分の中に持ち続けるきっかけづくりとなる大きな可能性を秘めている。 <了>
文=中野吉之伴