指導者育成に新たに導入された「コーチデベロッパー」の役割。スイスで実践されるコーチに寄り添う存在
「選手育成」の観点で欧州サッカー界の中でも注目度が増しているスイスサッカー協会。セリエA・ACミランのFWノア・オカフォー、ボローニャのFWダン・エンドイェなどメガクラブが熱視線を送る若手選手も多く輩出している。そんなスイスサッカー協会が指導者育成のために新たに儲けた役職が「コーチデベロッパー」。指導者を成長させるのではなく、指導者が成長するように寄り添って導く、その役割とは? (文=中野吉之伴、写真=AP/アフロ)
スイスサッカー協会による従来とは違うアプローチ
指導者育成はどの国においても非常に重要視されている。指導者の成長や成熟がなければ、そのもとでプレーする選手を適切に導いたり、辛抱強く支えたり、優しく見守ったり、時に鋭く戒めることもできない。そのため、指導者を育成する役割を担うインストラクターの人選と育成が極めて大事なポイントとなる。 では指導者がどうなることが指導者育成には求められるのだろう? 指導者インストラクターにはどのような要素が必要なのだろう? その本質的な問いに向き合っているのがスイスサッカー協会だ。 7月にドイツのヴュルツブルクでドイツサッカー連盟(DFB)とドイツプロコーチ連盟(BDFL)共催の国際コーチ会議でその分野の第一人者であり、スイスサッカー協会指導者育成指導教官主任のレト・ゲルトシェンがエネルギッシュな講義をしてくれた。 「どのようにそれぞれの指導者をさらに成長させることができるのだろうか? これがコーチ・デベロップメントの核となる問いかけです」 ゲルトシェンはそんな言葉とともに講義をスタートさせた。「指導者育成からコーチデベロッパーへ」というのがテーマだ。一般的に指導者育成という言葉から連想されるのは、インストラクターがさまざまな事象に対して異なる分野からの専門的な解釈でヒントを授けながら、指導者が担当しているチームや選手のトレーニングや試合におけるパフォーマンスが短期的だけではなく、長期的な視点で最適化されるように働きかけること。 ただし、スイスサッカー協会におけるアプローチはそうではない。 「どちらかというとガリレオ・ガリレイをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれないですね」 ゲルトシェンはそんなふうに話していた。 「誰も他人に教えることなどできない。そうではなく、自分で発見する手助けをすることしかできないのだ」(ガリレオ・ガリレイ) ヒントや解決事例によって「問題が解決する」「パフォーマンスがアップする」のではなく、「問題解決、パフォーマンスアップのヒントや糸口を自分で見つけ出せるようになること」なくして、指導者の成長はありえないというのがベースとなる考え方だ。 探るべきは答えではなく、問いのクオリティ。そこにこそ本質があるのだ、と。コーチを成長させるのではなく、コーチが成長するように導く。だからインストラクターではなく、デベロッパーという名称を冠している。