SNS時代のメジャー・トレード事情
米メディアの中には、コラムニストと呼ばれる名文を書く記者もいれば、スクープに命を賭けている記者もいる。CBSスポーツのヘイマン、FOXスポーツのローゼンサルらの名物記者は、睡眠時間とテレビ出演中以外は、大スクープであれ、小ネタであれ、1日中つぶやいている。加えて、ニューヨークならタイムズ紙やポスト紙、ボストンならグローブ紙など有力地元紙の担当記者は独自のネタ元を持ち、当該チームにやたら詳しいので、メジャー30球団の主要記者をフォローしておけば、大概のニュースは網羅できる。ちなみにヘイマン記者は約38万人、ローゼンサル記者は約66万人のフォロワーがいる。ヘイマン記者は最後の24時間でリツィートも含め117回つぶやいた。最後の1時間は14回と怒涛の投稿。午後4時を過ぎるとピタリと沈黙したのは、仮眠をとったのかもしれない。 ツイッターの中で選手名が挙がると、接触した球団、交換要員などが判明していく。ツイッターをチェックしていれば、「決裂した」、「撤退した」「交換要員でもめている」、「再交渉中だ」などと途中経過も詳細に追うことができる。正式に締結しなくても、「合意に近づいた」段階でも情報が挙がる。三角トレードなど当該者が多ければ、それだけ情報は漏れるし、メジャーの場合は代理人が絡むから更に情報は巡る。重要な決定事項は、基本、最初に報じた記者のスクープ扱いになるから、“後追い”の記者は、「○○記者が報じたトレードの裏を取った」とクレジットを含めてつぶやくことも多い。頻繁に情報が飛び交う締め切り当日は、秒単位で、つまり、文字入力のスピードの差で“手柄”を逃すことも珍しくはない。 メディアだけでなく、当該選手は記者会見より早くツイッターでファンや古巣に感謝と惜別のメッセージを投稿する。テレビは特番を組み、トレード情報だけを網羅するネットもある。プロセスが完了した形でニュースを報道することを第一義とする日本に比べて、米国の報道は情報量と拡散スピードが尋常ではない。スポーツ紙の朝刊一面でトレードが発覚するという状況は、今の米国では考え難い。 この状況を踏まえて、球団も知らぬ存ぜぬを決め込んでいる訳にはいかない。レッドソックスのファレル監督は昨年、トレード情報で名前の上がっている選手と個別にミーティングを持ち、できる範囲で経過や状況説明を行い、「選手に事情を説明することで、少しでも動揺や混乱が行いように」と説明した。そして「今年は去年程には、情報があがってこなかったから、特に個別に話し合いを持たなかった」と語った。 かつて、発表やスクープ以前に漏れ出る話は「単なる噂」に過ぎなかった。だが、今では全てが一般社会と共有される情報だ。SNS時代の米国トレード事情はスピーディー且つダイナミックに展開する。野球記者がスマホの画面とにらめっこしていた48時間が今年もやっと終わった。