法が許す限り、自然吸気エンジンを捨て去るつもりはない! 進化して“S”になったアヴェンタドールはどんなランボルギーニだったのか?
吠えまくる自然吸気6.5リッターV12を堪能する!
【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2017年4月号に掲載されたランボルギーニ・アヴェンタドールSのリポートを取り上げる。 【写真14枚】やっぱりアヴェンタドールのオーラは凄い! どこから見てもこれぞスーパーカーと言えるワイド&ローのプロポーションは必見 フラッグシップのアヴェンタドールの後を継いだアヴェンタドールS。より高性能な進化型となったスーパースポーツ・ランボルギーニの試乗会場となったのは、スペインはバレンシアにあるサーキット。果たして、“S”はスーパーなアヴェンタドールだったのか? バレンシア・サーキット(シルクイート・デ・ラ・コムニタート・バレンシアーナ・リカルド・トルモ)に着いても、雨は止んでくれなかった。空はどんよりと曇っている。新型車についての概要説明を受けてから試乗する予定だったのが、いつ天候が悪化するやもしれないという状況のなか、走れる状況にあるうちにまずは乗ってくれ、クルマの説明は後だ、ということになった。訊けば、昨日は大雨で大変だったらしい。 1周4.051km。欧州のサーキットには珍しく、左回り。腕利きインストラクターの操る先導車について走るカルガモ方式で、インラップとアウトラップ込みで4周を3回、あるいは4回、という希望的予定を聞かされた後、早速走り始めることになった。 ◆大きさを忘れさせる身のこなし 慌しく試乗プログラムは始まり、自分の番が回ってきた。ピットレーンに並んだアヴェンタドールSの1台に乗り込む。スウィング・アップ・ドアを跳ね上げると、そこには見慣れたアヴェンタドールのコックピット。敷居は低いけれど、幅が広いサイドシルを跨ぐようにして乗り込み、シートを合わせ、ステアリングホイールの高さと伸長を合わせこむ。自然吸気6.5リッターV12は完全に温まり、リッチな音を吐き出しながらアイドリング状態にある。ドライビング・モードはストラダーレ(公道)、スポルト(スポーツ)、コルサ(レーシング)、そしてエゴ(EGO)。 いきなりなので、まずはストラダーレでスタートする。むずかることLAMBORGHINI AVENTADOR Sなくスムーズに発進。早め早めにシフトアップしていく。V12エンジンは低い回転域も使うことになる。さすがに場所がサーキットだけあって、いかに6.5リッターであっても、これは自然吸気エンジンだから、最初から速いペースで引っ張る先導車についていくにはシフト・ダウンしたくなる。自動変速は時間をかけて滑らかに繋ぐ制御。これまでのアヴェンタドールと同じくシングル・クラッチ式の自動MTだからやむをえない。しかも、クラッチ・プレート径を抑えて締結力を確保するために、レーシング・カーさながらにツイン・プレート式なのだから、それを思えば制御は上手い。 が、走行ラインを教えながらペースを上げるインストラクターについていくには観察している場合じゃないようだ。慌ててモードをスポルトに切り替えて右足を深く踏み込む。と、タイト・コーナーの立ち上がりでお尻がむずかる。フル・ウェット状態の路面とはいえ、まるで後輪駆動の挙動だ。ところが、テール・アウトに備えて身構える間に、自ら姿勢を安定させ、加速していく。何度か繰り返す。テール・アウトさせたければ、もっと踏め、ということらしい。その気がないなら、こっちは前へ進むぞ、というスタンスらしい。 スポルト・モードではシフトアップは素早くなり、より高い回転域で上へ繋ぐ。繋ぐ瞬間にドンッというショックも出る。高出力エンジンのシングル・クラッチ式ではお約束。臆することなく、右足の踏み込み量を増やしていく。コーナーからの立ち上がり加速が速い。トラクション性能がすごい。フロント・アクスルの駆動力負担に頼っている感じがまったくといっていいほどないのに、この前進力。4WDで頑張っていますという感じはさらさらない。 背後でV12が8500rpmの頂へと素晴らしい勢いで淀みなく駆け上がっていく。いかにもランボルギーニの音。フェラーリのように金属音を交えて変調しながら咽び鳴くのではなく、ひたらすらピッチを詰めていく。燃焼音を連想させるサウンドだ。トップ・エンドまで引っ張り上げても、トルクのタレは微塵もない。レヴカウンターを視界の隅にとどめておかないと、自動変速のタイミングを計れない。マニュアル変速するのであれば、なおさらだ。 それにしても、この姿勢を保持する能力の高さときたらどうだ。今の状態で軽く1.8t近いはずなのに、重さを持て余す感じは皆無だ。ボディはひたすらソリッドで、それこそ剛性感の塊。脚が隙を見せて緩むこともない。万全の支えを見せ続ける。全長4.8m、全幅2mの大きさがあるから、人馬一体というわけにはいかないけれど、すべてがタイトに引き締まった感触は、はるかに小さなスポーツカーのそれと変わらない。 だからといって、短時間でポテンシャルを根こそぎ引き出せるような易しいクルマではない。何せ背中には巨大なV12が740psを引き出せるならやってみろと待ち構えているし、最高速度は350km/hだというのだから、とてもじゃないけれど、安易な気持ちで戯れるわけにはいかない。しかも、そういう剛体感の塊のようなクルマを足もとで支える超ワイドなタイヤは、ウェット路面ですら強力なグリップ力を発揮する。何か起これば、それは半端なスピードでのことではないだろう。 そうこうしているうちに1回目の試乗は終わった。次はコルサ・モードも試してみよう。 ◆よりスーパー・スポーツカーに 2回目の試乗。さっきとはべつの個体だ。乗り込んでポジションを合わせ、ドライブ・モードがスポルトにあることを確認する。ピット・ロードを出てコースに合流。タイト・コーナーを出て、クルマの感触が変わらないことを確認しつつ、モードをコルサに。1回目より速い引率スピードになんとかついていきながら、スロットルを開けていく。マニュアル変速で行こう。と、シフト・アップの瞬間、ドカーンと強烈なショックが襲ってきた。最短50ミリ秒を豪語する変速機が瞬時に繋ぐと、駆動系にすごい衝撃が走る。少し乾き始めてきた路面のせいもあってか、それでもタイヤは路面に喰らいついて離れない。シフト・アップ、ドカーン。試しに自動変速に任せてみると、引っ張る引っ張る。レヴ・レインジを根こそぎ使う。ショックは少し減った。中途半端な回転でシフトアップせず、全負荷で上限まで回し、根こそぎパワーを引き出してからシフト・アップしろ、ということだろう。トロトロと走るんだったらコルサは使うな! と叱り飛ばされているみたいな気分だ。 タイト・コーナーからの立ち上がり。スポルトほどお尻がむずからない。路面状況の違いのせいばかりではないようだ。まだひどく濡れている場所でも、リアは驚異的な踏ん張りを見せて、ただひたすらに前へ出る。トラクション最優先。遊んでいる暇はないんだよ、と言っているみたいだ。テールを出したいんだったら、スポルトでやれということなのだろうか。たぶん、そうだ。 ここ、バレンシア・サーキットには、長い直線はないけれど、さすがにこれほどの猛獣ともなると、軽く200km/hオーバーの速度になる。スタビリティが素晴らしい。路面に吸い付くような感触がある。遮二無二に空力開発を推し進めてきたフェラーリと違って、ランボルギーニは情感的スタイリングを優先させてきた感があったけれど、アヴェンタドールSは違う。見た目は前任機種と大筋で同じ。カウンタック以来の、これぞウェッジ・シェイプといったモチーフも変わらない。ディテールには戦闘機や蛇の毒牙をイメージさせる処理が取り込まれたり、それこそカウンタックを髣髴とさせるリアのホイール・アーチ形状が採用されたりして、われこそはランボルギーニなり! と全身で訴えるようなスーパーカー然としたスタイリングになっている。けれど、新型はそう見せておいて、空力性能が著しく進化している。ダウンフォースがすごい。その昔、カウンタックといえば、ノーズのリフトが怖くて、とてもじゃないけれど200km/h以上は出したくなかったことを思い出す。まさに隔絶の感がある。 破綻を一切来たすことなく挙動をコントロールするシャシーは電子制御4WDと4輪ステアに支えられ、並外れた高速性能をエアロダイナミクスが磐石のものとする。そこにあるのはスーパーカーではなく、スーパー・スポーツカーとしての動的本質の、驚くべき進化なのだ。 結局、天気はぐずついたままなんとかもって、4ラップの試乗を4回することができた。アヴェンタドールSの新機軸で目玉装備のひとつである第4のドライブ・モード、“エゴ”を試すところまではいけなかった。これは、パワートレイン(エンジンと変速機)、ステアリング(4輪アクティブ・ステア)、サスペンション(磁性流体ダンパー)という3つの可変要素を好みのモードの組み合わせで使えるものだ。とてもじゃないけれど、順列組み合わせを試す余裕はなかった。日本に来てからの課題として取っておこう。 サーキットから高速道路でホテルで帰る。夕方で交通量はけっこうある。ストラダーレ・モードにして自動変速でのんびりと走ると、アヴェンタドールSは、全身に漲る緊張を解いて、平穏な表情を見せた。ウラカン並みとはいかないけれど、良識ある市民を装うことはできそうだ。 ◆ランボルギーニであり続ける その日、話を聞くことができた研究開発部門取締役のマウリツィオ・レッジャーニ氏は、なぜデュアル・クラッチ式に変更しないのかという質問に答えて、こう言った。 「このパワートレイン・レイアウトのままデュアル・クラッチ式にすると、車幅が何十cmも拡がってしまう。非現実的です。ではなぜ、このレイアウトに拘るのかといったら、前後重量配分を理想化できるからです。変速機が後ろにあるウラカンはもっとリア寄りの配分なのです。それと、これはもっと大切なことですが、このレイアウトが、由緒あるランボルギーニであることの証として、認められていることです。他と違うということは何よりも重要なのです」 かつて、最初の復活ブガッティでEB110のパワートレイン開発を担当し、ランボルギーニに転じてムルシエラゴの開発責任者を務めた後、開発部門の総責任者となって技術面における長期的戦略を定め、推進してきたレッジャーニさんは、本物のスーパー・スポーツカーであるためには、どのようにクルマを進化させていかなくてはならないかを透徹した眼で見据えている。その一方で、スーパーカーであり続けるためには何を捨ててはいけないかということも誰よりもよくご存知なのだ。曰く、「法が許す限り、自然吸気エンジンを捨て去るつもりもありませんよ」 文=齋藤 浩之(ENGINE編集部) 写真=アウトモビリ・ランボルギーニS.p.A. ■ランボルギーニ・アヴェンタドールS 駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4797×2030×1136mm ホイールベース 2700mm トレッド前/後 1720/1680mm 車両重量(乾燥) 1575kg エンジン形式 60度V型12気筒DOHC48v自然吸気 総排気量 6498cc ボア×ストローク 95.0×76.4mm 最高出力 740ps/8400rpm 最大トルク 70.4kgm/5500rpm 変速機 シングル・クラッチ式7段自動MT サスペンション前後 ダブルウィッシュボーン ブレーキ前後 通気冷却式ディスク(CCB) タイヤ前/後 255/30ZR20/355/25ZR21 (ENGINE2017年4月号)
ENGINE編集部
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