米国大統領選挙と反ESGの広がり
米企業はESGという言葉を使うことに慎重に
またESGの中でも、「E(環境)」以外の「S(社会)」と「G(企業統治)」の重要性については、広く認識されている。それでもESGという言葉自体がかなり政治色を帯びてしまったことから、運用会社や一般企業も、実質的なESGへの取り組みというよりも、ESGという言葉を使うことに慎重になっている面がある。米大手運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)は2023年6月に、「ESGという用語はもう使わない」と述べた。 米飲料大手コカ・コーラなど、複数の企業が報告書や委員会の名称からESGという言葉を外している。同社は2022年に「ビジネス&ESG」と題した報告書を公表していたが、2023年にはその名称を「ビジネス・アンド・サステナビリティ」報告書に改称した。 多くの企業は、実質的にはESGの取り組みを進めているが、それを別の言い方に変え始めているのである。
改めて問われる企業の社会的責任
言葉を変えつつも、「E(環境)」については、具体的な数値目標を掲げて、取り組みを前進させている企業が多いとみられるが、米国企業が難しさを感じるのは「S」(社会)である。それは二酸化炭素排出量の削減のように、数値目標化することが難しいからだ。 また、多様性重視の取り組みは、米連邦最高裁が2023年6月に、人種によって大学入学を優遇する「アファーマティブアクション」(積極的差別是正措置)を違憲と判断したことによって、見直され始めた面もあるだろう。 2024年は大統領選挙戦の中で、気候変動問題に関する分断が米国で一段と強まり、企業は、ESGという言葉を使うことに一層慎重になっていくだろう。そうした中、企業の社会的責任について、ESGブームとは一線を画した深い議論が今後進められていくことを期待したい。 (参考資料) "The Latest Dirty Word in Corporate America: ESG(米企業が避ける「ESG」 反発受け禁句に)", Wall Street Journal, January 10, 2024 「テキサス州の「反ESG法」、かいくぐる投資家」、2024年1月12日、NIKKEI Financial 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英