「世の中にとっても芸能界にとっても、いないほうがいい」前田忠明が振り返る、芸能レポーターの「生きざま」
雑誌記者から転身、年収は倍以上に
梨元の直撃スタイルが視聴率を上げたことで、他局のワイドショーも追随する。78年、フジテレビは『女性自身』の記者で37歳の前田をつかまえた。 「最初、『小川宏ショー』のADを1年半やりました。テレビをよく知らなければ、取材に出られないだろうと言われて。番組がどうやって作られるのか。生放送はどう進んでいくのか。勉強になりましたね」 80年4月に芸能レポーターに「昇格」すると、年収は週刊誌時代の倍を超えた。深夜や早朝に電話が鳴れば、すぐに現場に飛んだ。芸能人カップルが海外旅行に出掛けるという情報を掴めば、一目散に飛行機に乗って追い掛けた。正月もハワイで取材に勤しんだ。 「もともと、ワイドショーは12月29日から1月3日くらいまで休みなんです。ただ、レポーターは正月明けの番組用に『紅白歌合戦』の出場者に感想を聞くため、大みそかはNHKの西口の裏玄関で張っていた。そしたら、『明日からハワイに行きます』という歌手が多かったから、正月はホノルル空港で待ち構えるようになったんですよ」 芸能人のハワイ旅行レポートは、ワイドショーの正月名物となった。 「成田空港でダウンタウンの浜田雅功と小川菜摘の夫婦が子どもと一緒にいてさ。浜ちゃんが『オーイ!』って呼ぶの。『ハワイ行くの?』と聞いたら、『そうですよ。でも逃げますよ』って言うからさ、『それは無理だよ』と話してね。結局、ホノルル空港の出入り口でマイクを向けましたよ。ある年には、松平健が海で泳いでいたから声をかけると『なんだ、忠さんか』って。2人で飲んで、電話番号も交換してさ。彼は奥さんと死別した後、仕事をセーブして一生懸命子どもを育てた。去年、紅白で『マツケンサンバ』が話題になってうれしかったよ」
世の中にとっても芸能界にとっても、いないほうがいい。でも人の不幸は蜜の味
芸能レポーターはテレビに映らない場所でタレントと信頼関係を築くこともある。しかし、プライベートに土足で踏み込む印象が強く、悪名高い職業でもある。昨年12月21日、愛娘を失った神田正輝と松田聖子に対し、記者が「今のお気持ちは?」と尋ね、非難が殺到した。 「そんな質問しても、話すわけないんだからさ。俺も同じ立場だったから、聞くなとは言わないよ。だけど、察してやれよと思ったね。初めて会ったような人に尋ねられても、後味の悪さが残るだけ。昔のワイドショーはスキャンダルだけじゃなくて、コンサートに行ったり、密着取材したり、何度もタレントと顔を合わせていた。その上で、何かあった時の記者会見に至っている。だから、芸能人とレポーターの間に阿吽(あうん)の呼吸があった。勝新、やすしなら懇意の梨元、女優なら映画に強い福岡翼が最初に聞くとかね」 芸能レポーターを40年以上続けてきた前田はこう断言する。 「ハッキリ言うけど、世の中にとっても芸能界にとっても、いないほうがいいんだから。今、ネットでたたかれているけど、昔から『芸能レポーターって何者なの? 自分が一番偉いと思ってんの?』と批判されてましたよ。でも、当時はワイドショーの視聴率グラフで、芸能ニュースが一番高かったんですよ。特にスキャンダルを扱うと、グンと上がる。最近のネット記事も、政治や経済の硬い話題より不倫ネタのほうがアクセス高いでしょ? 人の不幸は蜜の味とはよく言ったもんで、興味あるんだろうね」 誰の心にも悪は潜んでいる。自分より不幸な人間を見て何処か安堵したり、幸せな人間に嫉妬を感じたりするものだ。そんな自らの悪を払拭したいために、芸能レポーターを否定するのだろうか。 「時々、考えるよ。芸能人のプライベートをバラしてね、飯のタネにしていた自分はいったい何なんだろうと思ってさ。しなけりゃよかったんじゃないのかなって。昔のアイドルなんて、トイレにも行かないという幻想をファンに抱かせて関係性が成り立っていたわけだし。それはそれで異様だけどね」 現在は芸能人がSNSで自ら発信できる。一方的な報道に対し、声を上げられるようになった利点は大きい。他方で、「本人が言ってるから真実」と疑いもなく妄信するのは危険もはらむ。 「人間、都合の悪いことは隠すからね。何を言っても信じてくれるファンはありがたい存在でしょう。でも、本当にそれでいいのかなとは思う。仮にうそをついて乗り切れば、また嘘を繰り返す。すると、ファンも減っていくよね。決して芸能レポーターを肯定はしないけど、厳しく突っ込んだり、疑問をぶつけたりする人って必要なんですよ」