20~30代の観客が急増する理由とは? 特異な集団「唐組」という生き方<ルポ:紅テントと「特権的肉体」>
存在自体が文化遺産の<全員が役者でありスタッフ>
全員が役者である劇団唐組では、上演中の照明、音響操作も役者たちが入れ代わり立ち代わり行っている。上演前のもぎりや上演後の物販もすべて彼らの仕事だ。舞台で使用する美術も、稽古後に自分たちで作ったものである。ここ長野では、劇団員たちは公園の脇にある地元の公民館──神社と一体化した平屋の古い建物に布団を敷き、全員で寝泊まりをする。 食事は東京・雑司が谷の鬼子母神から毎年譲られる米や、地元の支援者から提供された食材をうまく使い、質素だがボリュームあるものが提供される。こうした食事や経費を管理しているのも、00年代からヒロインを務めるベテラン女優の藤井由紀だ。夕食後は銭湯で汗を流し、酒が好きだった唐がいたころと同じように、みんなで焼酎を回す。 現在、このようなかたちで固定した劇団員が運営に当たり、舞台に上がるスタイルを採る劇団は少なくなっている。たとえば野田秀樹のNODA MAPは、作品ごとに俳優・スタッフを集めるプロデュース公演システムを採っており、ケラリーノ・サンドロヴィッチのナイロン100℃も、劇団として俳優が所属しているものの、やはり作品ごとに柔軟に出演者を選んでいる。両劇団は1万人規模の観客を動員する人気劇団だが、東京などの都市部で活動するいわゆる「小劇場」の作り手たちになると、劇作家を中心に作品ごとに制作スタッフ、俳優を代えて公演を打つ場合がほとんどだ。 唐組のように強固な劇団の座組を維持しているのは、唐と同世代の鈴木忠志のSCOTや、後続世代である平田オリザの青年団などの例があるものの、業界では少数派になっている。ましてや舞台まで自分たちで作り、野外公演を続けるなど、その存在自体が文化遺産である。 ちなみに、60年代にフランスで旗揚げされ、パリ郊外の旧弾薬庫を拠点に集団創作を続けている世界的な劇団・太陽劇団が2023年に来日した際、唐組の公演を観に来た役者たちは、劇団員が総出で運営に当たる活動方針を聞いて、自分たちとまったく同じだと語ったという。