「CVT」の終わりは日本車の始まり 2014年クルマ業界振り返り
「トルコン・オートマ」の復権
エンジニアはこうした問題に永らく頭を痛めていたのだが、その間に新しい選択肢が現れた。 一つは「効率の悪い化石のような技術」として葬られかけていたトルコンオートマの復活である。トルコン式のオートマチックでは、実際の変速は遊星ギアによって行われ、その部分はすでに枯れた技術で何も問題がない。問題はクラッチの役割をするトルコンそのものに集約されていたのだ。 トルコンとはトルクコンバーターのことで動力を伝える仕組みのひとつだ。よく例えられるのは一対の扇風機だ。片方が風を送ると、他方はその風で回される。風を送る側はエンジンにつながっていて、風を受ける側はギアを介して車輪につながっている。 低速では風が弱いので止まっていることができ、自動クラッチとして機能する。トルコンのメリットはこの停止状態から徐々に風を強めてスムーズな発進ができることだ。上手に設計すれば発進マナーが洗練されたものになる。ちなみに実際のトルコンは空気の風ではなく油の流れで力を伝えている。 しかし流れが緩やかだと止まっていられるということは、別の見方をすれば、エンジンの力の一部は油を掻きまわすだけで動力として活かされていないということでもある。トルコンにはスリップロスがあってこれが燃費を悪くする原因になっている。 だったら必要ない時にはこの扇風機どうしをつないで直結にしまえというのがロックアップ機構だ。ロックアップ機構そのものは40年近い歴史があるのだが、近年のコンピューター制御技術の進歩で、今や稼働時間の80%、つまり発進時を除くほとんどの稼働時間をロックアップ状態にすることが可能になってきた。 ロックアップ領域が広がってトルコンのデメリットがほぼ消えた。むしろCVTの様に制約がなく、ギア比を自由に設定できるので、低速ギアと高速ギアの差を大きくとれる。結果として高速巡航時の燃費が向上した。現在各社が目標としているのは最大/最少ギア比の比率を10倍まで持って行くことだ。発進をラクにしつつ、高速巡航燃費を良くするにはこの10倍が目安になるのだそうだ。 ただし、そうなると従来の4~5段では各段のギア比のギャップが大きくなり過ぎるため、8段あるいは9段への多段化が進んだのだ。やみくもに「沢山ある方がいいでしょ」ということで9段になっているわけではないのだ。 駆動ロスの問題がほぼ解決すると、ギア比の自由度が高く、ドライバーの違和感がないというメリットがCVTに対して強みになってくる。そしてトルコンは変速マナーが比較的洗練されている。ただし途上国でのメインテナンスの問題はやはり残る。だから多段型トルコンは原則的に先進国向けだと言える。こうした新世代トルコン変速機の代表例はマツダのSKYACTIV-DRIVEだろう。マツダはCVTからトルコンへのシフトを考えているらしい。