矢野雅哉の22球…日本新記録となった9月22日中日戦・第3打席の粘りに滲み出た、広島ドラ6遊撃手の生き様
3年前との違い
追い込まれてからファウルで逃げる矢野の姿は、3年前にもみられた。 プロ入りしたばかりの21年の春季キャンプでは、粘ることしかできなかった。実戦では真っすぐに振り遅れたようなファウル、変化球には体勢が崩されたファウルでしのいでいた。広島キャンプを視察したある評論家は、そんな打撃に苦言を呈していた。 「あんな打撃させていたら打てなくなるよ。しっかりとスイングさせた上でのファウルとは、意味がまったく違う」 評論家が指摘したように、当時は当てるだけで精いっぱいだった。 「あのときは(プロの球威に)ついていくのに必死だった。今は振りに行く中で、(捉えるべき球とは)違うと思った上でファウルにできている」 継続してきたウエートトレーニングの成果もあり、スイングスピードが上がった。さらに今春キャンプで新井貴浩監督からもらった助言が矢野の感覚を大きく変えた。 「『真っすぐを泳ぐイメージで打ってみろ』と言われてから、感覚が変わってきたんです。ヘッドからも『普通に行っても打たれへんのやから、真っすぐ狙ったら真っすぐ振って帰って来い』と言ってもらえて割り切れるようになって、心に余裕ができた」 今季は150キロ超の直球にも振り負けない強さがみられる。154キロの高めの直球をレフトへ運んで殊勲者となった試合もあった。直球への不安がなくなり、打席での割り切りによって狙い球や失投がくれば長打にもできる。昨季は右方向への長打は1本もなかったが、今季は二塁打7本、三塁打6本、本塁打1本と、右方向へ引っ張った長打が激増していた。 逃げるだけでなく、隙を見れば食らいつく。同じ粘る打撃も3年前とはまったく異なる。 ⑪スライダー 137キロ 外角中 ファウル ⑫直球 146キロ 外角高め ファウル ⑬直球 148キロ 外角中 ボール ⑭直球 145キロ 外角高め ファウル ⑮直球 146キロ 外角低め ファウル ⑯直球 145キロ 中高め ファウル ⑰直球 146キロ 内角中 ファウル ⑱直球 148キロ 内角低め ファウル 涌井の矢野に対する球数が10球を超えてから、1球ごとにスタンドからどよめきが起きるようになった。ただ、そんなスタンドの変化も、矢野の視界には入っていない。捉えているのは、涌井の表情と18.44mから放たれる球の軌道だけ。涌井がサインに首を振った12球目は狙っていたカーブと読んだが、高めの真っすぐ。なんとか反応してファウルで逃げた。
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