矢野雅哉の22球…日本新記録となった9月22日中日戦・第3打席の粘りに滲み出た、広島ドラ6遊撃手の生き様
今季レギュラーをつかんだ選手の成長記録のような打席だった。 広島が歴史的な急失速を見せた9月、クライマックスシリーズ圏外となる4位に転落した22日の中日戦で、矢野雅哉が1打席で22球を投げさせる日本記録をつくった。1947年の太陽・松井信勝(結果は四球)、2012年のソフトバンク・明石健志(同四球)、13年のDeNA・鶴岡一成(同三振)の1打席19球を更新。新記録となった打席で見えたのは、はっきりとした成長の跡だった。 【貴重写真】白スーツの衣笠、打席でエグい殺気の前田やノムケン、胴上げされる山本浩二、痛そうな正田、炎のストッパー津田恒美などカープ名選手のレア写真を一気に見る 1-2とリードを許して迎えた6回1死走者なし。今季本塁打2本の打者と、ここまで3安打無四球1失点と安定した投球を続ける通算161勝右腕(9月21日時点。成績は以下同様)・涌井秀章との対戦では、何かが起こるとは思えなかった。スタンドには特別な高揚も緊張感の変化もなかった。
2球で0-2と追い込まれて
①直球 142キロ 外角中 見逃しストライク ②シンカー 136キロ 中低め ファウル 初球の真っすぐを見逃した後の2球目、低めに落ちるシンカーをファウルした。2球で追い込まれた矢野だったが、頭は意外にも冷静だった。 「落ち球ならタイミングを取りながら、ヒットにできるなと感じたんです。直球や曲がり球はカットで逃げながら、落ち球やカーブなどの緩い球を狙って野手の間に落とすイメージで入っていった」 昨季までの3年間でも通算230打席だったが、今季は前日までに450打席を重ね、初めて規定打席に到達した。多くの投手との対戦が打者としての引き出しを増やし、狙い球を絞る決断力と割り切りによる大胆さを身に付けた。この打席でも、たった今、捉えきれなかったシンカーをターゲットに絞った。追い込まれながらも腹をくくれたのは、この日の2打席を含めた452打席で得た経験があったからだ。 ③直球 142キロ 内角高め ボール ④シンカー 134キロ 外角低め ファウル 体に近い真っすぐのボール球を見極めると、続く4球目は狙っていたシンカーが外角低めに来た。だが、捉えきれずに三塁側へのファウル。完全な打ち損じだった。技術不足を痛感させられたスイングに奥歯をかみしめた。 「あれは僕のミスショット。中(フェアゾーン)に入れたかったけど、ちょっと見すぎた」 ⑤直球 142キロ 外角高め ボール 5球目の真っすぐは高めに抜けて平行カウントとなった。 「カーブが必ずどこかで来ると思っていた。フルカウントからは投げにくいだろうから、(カウント)2-2のときにくるかなと。ただ、ここから全然、落ち球もカーブも全然来なくなった」 だが、百戦錬磨の涌井と宇佐見真吾の中日バッテリーは、そんな矢野の胸の内を見透かしたように極端な配球を続けた。5球目以降、投じた球種は直球とスライダーのみ。ここから矢野と中日バッテリーとの我慢比べが、始まった。 ⑥スライダー 135キロ 中 ファウル ⑦直球 144キロ 外角高め ファウル ⑧直球 146キロ 内角中 ファウル ⑨直球 146キロ 内角高め ファウル ⑩直球 146キロ 中高め ファウル 球数は2桁10球に到達し、静かだったスタンドが徐々にざわつき始めた。涌井の投球間の間合いも長くなり、サインに首を振るシーンも見られた。
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