「空間と作品」展(アーティゾン美術館)レポート。あの作品はどのように生まれ、誰が持ち主だったのか? 作品が見てきた景色に思いを馳せる展覧会
畳の上で円山応挙の襖を見る
壁そのものや建具に施された絵など、建物の一部としてつくられた作品も空間に大きな影響を与える。江戸時代の絵師・円山応挙の襖は、今回、大広間をイメージした畳が敷かれた空間のなかに展示されている。 畳の上には靴を脱いであがることができ、描かれた子犬たちや引き手の部分などの細かな部分を間近で見ることができる。ガラスケースなどの遮るものがない状態で作品を鑑賞できる貴重な機会だ。昔の日本家屋のように襖に横方向から外光が入る様子を再現すべく、照明も上からではなく、襖に対面するよう正面に設置されている。この照明は、美術館がある場所の太陽の動きにあわせて光が微妙に変化する装置になっているという。
美術品に囲まれたリビング空間を演出
さらにインテリアスタイリスト・石井佳苗の協力のもと、様々な美術品を現代のインテリアとともに組み合わせて演出した空間も登場。一人がけソファとランプの横に飾られた佐伯祐三の絵画、イタリアを代表するデザイナーのエットレ・ソットサスによるサイドボードやチェストと山口長男の絵画など、日常の風景のなかに溶け込むことで作品たちが新たな表情を見せる。 ロバート・ライマンの白く塗られたキャンバスと、ソットサスによるトーテムが同じ空間に存在する展示室は、作品と空間という2つの要素に介在する「人」の存在にも着目。白い壁に同化して見えるような作品と、シンボリックな作品を両極端のものととらえ、そのなかに存在している鑑賞者が作品と新たな関係性を築くことをねらいとしている。
あの作品の持ち主は?
主に空間との関係に目を向けた6階の展示に対し、5階は作品の持ち主、4階は額縁をはじめとする作品の周囲にあるものにフォーカス。 5階では、冒頭の展示室で青木繁の創作に影響をおよぼしてきた友人たちが所蔵していた作品群を展示。つづく古賀春江の《遊園地》《素朴な月夜》は、小説家・川端康成の旧蔵品で、《素朴な月夜》は床の間に飾って鑑賞していたそう。 ほかにも、アーティストでありアートディーラーとして自身のギャラリーで同時代の作家たちを売り出したベティ・パーソンズが所蔵していたジャクソン・ポロックの作品、「松方コレクション」を築いた松方幸次郎旧蔵のマネの自画像、さらにはメアリー・カサット、ヴァシリー・カンディンスキーといった作家の作品も、かつての持ち主や関与した人物の情報とともに展示されている。 なかにはマイクロソフト共同創業者ポール・アレンが所蔵していたジョージア・オキーフの絵画や、モダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエが所蔵していたパウル・クレーの絵画など意外な持ち主の名前も。 またこのフロアでは、画家の作品とその作家が所蔵していた作品が並べて展示されているのも特徴。海老原喜之助の作品と、彼が所蔵していたピカソの彫刻などがセットで設置されている。さらには古代彫刻、筑前藩主の黒田家が所蔵した雪舟《四季山水図》など、まさに古今東西の作品一同に介している。