観ていて辛くなる…なぜ有村架純は不幸な役ばかりを演じるのか? 受け継がれる“薄幸女優”の系譜。背景にいるキーマンとは?
しんどい役の総決算『海のはじまり』
2023年配信の映画『ちひろさん』(Netflix)で演じた、ちひろも切なかった。元風俗嬢で、家族ともうまくいかず、海辺にある弁当屋で働きながら、地元の住人たちを癒している。なぜ不幸設定の女性は弁当屋で働く率が高いのか? も興味深いが、この役も有村によく似合っていた。 そして話題作となった『海のはじまり』(フジテレビ系)の百瀬弥生は、しんどい役の総決算なのかと疑った。 母親とも折りが合わず、若いうちに恋人の子どもを中絶。やっと巡り会えた優しい恋人の月岡夏(目黒蓮/Snow Man)と結婚も視野に入れていたのに、突然、子持ちに……。そのうえ相手の母親から「子ども産んだことないでしょ」と言われ、亡くなった元恋人から手紙を受け取る羽目に。私なら序盤のうちにダッシュで逃げると思うが、弥生は耐えた。そして別れた。これだけでも切ないのに、別れた後も元彼の子どもの相手をしているとは、もう聖母マリアの域だ。 私の記憶の範疇で並べたしんどい作。実際、有村はこの倍以上の作品へ出演し続けていて、どれも役柄はバラエティーに富んでいる。これは演じる者としては通常運転だと思う。 ただ「かわいそう」「不幸」「切ない」「泣ける」「しんどい」といったワードが並ぶ作品は、良くも悪くも目立つ。その作品を30歳前半にして約7作も経験している有村は、女優として強すぎるのだ。ではなぜそんな役が回ってくるのかといえば、有村架純は疲れているのではないかと思う。
リアリティを増していく“しんどい演技”
ここ数年、若者を中心にして頻繁に使われる「しんどい」とはネット辞書で調べると「ひどく疲れを感じるさま」「肉体的・精神的な負担を感じ、その負担が長く続くのは、いやだと感じられるさまを表す形容詞」とあった。なるほど。 『海のはじまり』のスタート前、彼女が痩せているとファンが気づいた。働きすぎかもしれないし、30代前半の女性なんて公私ともども悩みだらけだ。が、10代で女優を志して、一度はダイエットを命じられたこともある彼女。それが2014年以降はほぼ休まず、作品に出演し続ける所属事務所の看板女優となった。 本日に至るまで10年以上も突っ走ってきたら、そりゃ疲れるし、しんどい演技にリアリティも増す。2023年、彼女は映画ネット媒体のインタビューでこう話す。 「20代はお仕事のために生きてきて、自分がお仕事を頑張れば、周囲のみんなも幸せになれるはずだと、その人たちのために頑張っているようなところがありました。ただここ2年くらいは、そろそろ自分自身の幸せについて考えてもいいのかな」(クランクイン!/2023年2月) いい、いいよ。有村さん、そろそろ安寧の場所を確保してください。 【著者プロフィール:小林久乃】 出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーション業などを生業とする、正々堂々の独身。
小林久乃