WONKが語る、東京起点のビート・ミュージック・クロニクル、久保田利伸との共鳴
憧れのシンガー/ミュージシャンとの共演について語る4人は本当に楽しそうで、プロのミュージシャンである前に、4人とも生粋の音楽好きであることが伝わってくる。エクスペリメンタル・ソウル・バンド、WONKが6枚目のアルバム『Shades Of』をリリースする。結成から11年を迎えたバンドは、この最新作で原点回帰を掲げ、J・ディラ以降のビート・ミュージックを生演奏と打ち込みのサウンドで独自に再現することを出発点とし、そこに留まらない作風も確立してきた軌跡を遡っていく。LAのビートメイカー/プロデューサーのKiefer、韓国のラッパー、BewhY、Jinmenusagi、さらに久保田利伸やビラルといったシンガーも本作に参加する。長塚健斗(vocal)、江﨑文武(key)、井上幹(bass)、荒田洸(drums)に新作の話を聞いていくうちに、話題は音楽との向き合い方にまでおよんだ。 【写真】メンバー、撮り下ろし写真 ―アルバムの制作はどのように始まりましたか? 荒田:2023年で10周年だから作ろうと始まったけど、間に合いませんでした(笑)。 井上:アルバムのコンセプトはいつの間にか荒田が作っていた。 ―今回のアルバムの客演の方々との共作はどれも興味深いですけど、なかでも「Life Like This」の久保田利伸さんはインパクトがありますね。 荒田:実は前からアルバムを一緒に作りたいという野望があったんです。 ―個人的にも久保田利伸は思い入れのあるシンガー、ミュージシャンなのですが、みなさんの久保田利伸原体験はどんなものですか? 久保田さんはいろんな面があるじゃないですか。 荒田:高校のころに「LOVE RAIN ~恋の雨」(フジテレビ系の月9ドラマ『月の恋人~Moon Lovers~』の主題歌)はカラオケで歌っていましたね。そういう国内のオーヴァーグラウンドの曲が原体験。一方で、WONKとのつながりで言えば、久保田さんの「Nothing But Your Love」という曲をJ・ディラがリミックスしていますよね。 長塚:僕もカラオケで歌いまくっていたのはありますし、なにより本当に大好きで影響を受けた数少ない日本人のシンガーのひとりです。めちゃくちゃ聴いてきたし、DJをするときは必ずと言っていいほどかけます。憧れの人です。ソウル、R&B、ヒップホップを深く理解しながら、ポップスも作って成功されている方ですから、はるかに自分らより広い視野を持ってらっしゃいますよね。制作のときに荒田と共鳴し合っていたのが印象に残っています。 荒田:僕としては久保田さんにコーラスもお願いしたかったんですけど、最初は断られまして(笑)。久保田さんは、アメリカのレジェンドのソウル・シンガーがスタジオにやって来て、メインを一本だけ歌って帰る、みたいな渋さを出したいとおしゃっていて。それでも僕はコーラスが諦めきれなくて、けっこう粘ったんです。 江﨑:あのスタジオでのせめぎ合いは良かった(笑)。荒田は先輩との関係の築き方が上手で、最後は「その気になったらやるよ」と久保田さんに言わせていましたから。 荒田:結果的にその気になってもらいました(笑)。コーラスはそこまで入っていないですけど、想像以上にフェイクを入れてくれましたね。 江崎:無限に出てくる久保田節のテイクがすべて素晴らしかった。で、最後に久保田さんと荒田がコントロールルームの中央の席に座って、どのテイクにするかを選んでいる光景がすごく良かったな。師弟関係ではないけど、大先輩と後輩で新しい音楽を作っている姿が。 ―歴史を感じますね。 荒田:気を遣いましたね。 一同:ははははは。 ―井上さんにとっての久保田利伸というシンガー/ミュージシャンはどんな存在ですか? 井上:僕は、自分が聴いてきた良い音楽や、世界に無限にある良い曲をみんなに聴いてほしいという思いがあるんです。WONKの活動も自分たちが影響を受けた音楽をベースに、それを自分たちなりに消化して表現していますし。久保田さんは、そういうことを地で行って大きな成功を果たしている稀有な方だと思います。例えば、ポップスの曲をやっても、久保田さんが大好きなソウルの節回しが必ず出ている。芯からそういう音楽で育ってきたことを感じさせますよね。それはすごいことだと思うんです。 長塚:パイオニアですよね。あらためて昔の久保田さんの音源を掘ってみたんですけど、われわれが生まれる前にすでにこんなサウンドを日本でやっていたのかと、その先駆性に驚きます。しかも、それをずっと続けてきたわけですから。