WONKが語る、東京起点のビート・ミュージック・クロニクル、久保田利伸との共鳴
T3、BewhYといったラッパーたちとの共作
―シンガーと言えば、ビラルの参加も驚きですね。 荒田:ずっとやりたいなとは思っていました。 江﨑:荒田の家で制作をしたあとに、飲んでいい感じになると、荒田が定期的に流すライブ映像があるんです。それがロバート・グラスパー・トリオとビラルによる「Body And Soul」。で、みんなで必ず「最高!」ってなる。青春ですよね、ビラルは。 井上:ビラルはもちろん元々はソウルのシンガーだけど、オルタナ・ロック味も感じるし、ジャズもできる。シャウトもすごいし、迫力もあって神々しさもある。今回の2曲もそういうイメージとは逸れていないと思います。コテコテのソウルだけというイメージはあまりないですね。 ―どうやってビラルと制作をしたのかは気になります。いわゆるオケをデータで送って歌を入れてもらった感じですか? 荒田:いや、ちょっと違います。こちらでメロディも付けて送りました。すると「自分の歌い方で歌うね」って返事が来たので、「崩してもらっていいですよ」と返して。で、もらったヴァージョンを聴くと……。 井上:ぜんぜん違ったよね(笑)。 荒田:どこもいっしょじゃなかった! 江﨑:おそらくメロディではなくて、ピアノの和音だけ聴いて、そこに自分のメロディを乗せたんだと思う。アウトロで僕が弾いていたフレーズをそのままメロディに持ってきたりもしていた。驚きでしたね。超良かったです。 荒田:実際にコラボするのであれば、向こうのアイディアが欲しかったから、求めていたことではありました。 井上:(長塚)健斗が仮歌は入れていたんです。 長塚:ビラルの別の曲の歌詞を引っ張って来て、この曲の歌詞をここに乗っけていますと明示したうえで、「新たに歌詞を書いてほしい」と伝えて。「Miracle Mantra」という曲名もビラルが付けてきたんです。ビラルにしか付けられない、このタイトルは。 荒田:返って来たデータにそのタイトルが付いていて。 ―ビラルとは2曲やっていますが、「One Voice」の方ではスラム・ヴィレッジのラッパーのT3が参加しています。 井上:ラップのスタイルがいまの流行りのスタイルではないですよね。荒田や僕はやっぱりJ・ディラや、ブーム・バップのヒップホップが好きだし、オートチューンをかけた流れるフロウというよりは、こっちの方がWONKのビートには合う。 荒田:僕のイメージですけど、スラム・ヴィレッジはフロウが独特で、グリッドに合わせてラップする感じではないですよね。 荒田:サイファー感があると思う。常にかっちり韻を踏もうと決めてラップしているというよりは、仲間うちでラップし合っていてちょっと字余りもしちゃう、それがより会話っぽい。そういうスタイルを感じますね。 ―他に、今回のアルバムのラッパーとの共作は、韓国のBewhY(ビーワイ)との「Skyward」、そしてシングルが先行で出ていたJinmenusagiとの「Here I Am」があります。 井上:例えば、トラップのビートでグリッドに合ったスタイルがいまは主流だとは思うんです。ちょっとよれていたり、グリッドに合っていなかったり、生音が入っていたりするビートでラップできる人は限られる気はしていて。ジメサギ(Jinmenusagi)も音楽力と技術力があるから今回ぴったりハマりましたし。BewhYもジメサギも、横のノリの健斗の歌い方やメロディを意識しつつ、それぞれの味を出してくれたと思いますね。