「つくるのが好きとはまだ言えない」――ジブリ出身、53歳の新人監督・安藤雅司のアニメーション哲学
今監督は自らのサイトに、安藤さんの「キャライメージ」のセンスが素晴らしいと書いている。「特に私が素晴らしいと思い、その上がりに大受けしたのはメインからは少し外れたキャラクターたちであった。おそらく安藤さんもメインキャラクターたちよりは気楽に描いてもいたのだろう。何というか、安藤さんの悪戯心に溢れた観察眼がいかんなく発揮されていたと思う」(Kon’s toneより) 安藤さんは、今監督最後の長編となった『パプリカ』でもキャラクターデザインを務め、作画監督も引き受けた。
おじさんが主人公のアニメはめずらしい
初監督作品となった『鹿の王 ユナと約束の旅』。原作は、架空の時代を舞台にした長編ファンタジー小説だ。主人公は、強国と戦って敗れ、奴隷として捕らわれていた戦士・ヴァン。ある日、捕らわれていた岩塩鉱で山犬たちに襲われるも混乱に乗じて脱獄し、生き残ったヴァンは、同じく生き残った幼い少女ユナと出会う。ベストセラーだが、映像化は難しいとも言われていた。 「原作のストーリーは複雑で、膨大な情報が織り込まれています。政治劇でもあり、ミステリーでもあり、ファンタジーでもあるという、ジャンル横断的な作品でもあります。それが魅力だと思うんですけど、それらのすべてを同時に表現するのはものすごく困難だろうと思いました。じゃあ自分たちは、原作の持つさまざまな手触りのうちの、どこをすくいとっていくのか。もともとの情報量をいかに映画の表現に落とし込んで、想像力を働かせてもらうことができるかを、具体的にシナリオの作業を進めながら探っていきました。 戦闘で家族や仲間を失い、死んだも同然のように生きていたヴァンが、ユナというまだ幼い、未来ある命と出会うことで、もう一度生き直す。そこを、物語を推進する軸にしていくべきかなと思いました。おじさんを主人公にしたアニメーションって、めずらしいじゃないですか。おじさんを魅力的に描くということが挑戦でもあり、一つやりがいになるだろうなと思いました。 ただ、ふさわしいデザインって、そんなに思いつくものでもなくて。一般受けしようと思い始めると、精悍で、細面で……と考えてしまうんですけど、そうすると逆に個性が消えていきそうな気がして、ぱっと見でかっこいいことよりも、どんと出てきたときに、映画の中で何かを象徴する存在として(観客の印象に)残るようにと意識しました。キャラクターたちが並んだときに、シルエットが重ならないようにということは意識しましたね。ヴァンは大きくどっしりとしていて、いかにも信頼がおけそうな感じに。そういうヴァンに、ユナという小さき者が寄り添っている。その2人のシルエットが、物語を象徴するものになるかなと思いました」