「つくるのが好きとはまだ言えない」――ジブリ出身、53歳の新人監督・安藤雅司のアニメーション哲学
「宮崎さんは常に引退、引退と言っている方なので、次やるときにはそろそろ安藤が中心になってやっていかなきゃいけないみたいなことは、宮崎さんから言われていて。そうであればこういう感じでやりたい、じゃあ作画は任せる、みたいなやりとりをしていたんです。だから、密約ということでいえば、ある意味で、宮崎さんとやっているんです。 でも、宮崎さんはすごくパワフルで、やり始めるとぶわっとイメージがわいてくる。やっぱり宮崎さんは、絵で表現する人なので、自分のつくりたいものに素直になろうとしたら、誰かに任せるかたちではやれなくなっていく。でも、だったらそんなこと言わなきゃよかったのにっていう、宮崎さんとぶつかったというよりも、自分の中で折り合いをつけるのに、懸命になっていた感じです」 宮崎監督とは違う表現を模索する自分の姿勢が、スタジオの活性化につながればという思いもあった。その後、ジブリを退社。 「退社したのもその延長です。ジブリは宮崎さんのスタイルを踏襲していくだろうし、その中でちょっと違ったものを持ち込もうとしても、劇場作品だけでやっているスタジオなので、挑戦する機会が少ないんです。向上心を持ち続ければ、ジブリの中でも挑戦できることはあったんじゃないかとは、いまだに少し思うんですけど、具体的な機会がないままにその意思を保つのは難しくて、外の現場を味わってみようと決めました」
ジブリから独立。今敏監督との仕事
独立して最初の仕事は、テレビアニメ『OVERMANキングゲイナー』(富野由悠季総監督)と映画『東京ゴッドファーザーズ』(今敏監督)の原画。先にジブリをやめた先輩や同期を頼り、声をかけてもらった。 「今敏さんという人が業界に与えた刺激というか、映像表現の仕方として鮮烈だったんですよ。『ジョジョの奇妙な冒険』のOVA(セルビデオ用の作品)を見てそう思いまして。『PERFECT BLUE』を見た際も、本当に映画監督としてすぐれていると感じました。できるものなら今さんの仕事をやってみたいと思い、小西(賢一、『東京ゴッドファーザーズ』キャラクターデザイン・作画監督)さんにつないでもらいました。 (今監督の作品は)レイアウトとしてはしっかりしているし、リアリティーのある映像をつくり出しながら、カットのつなぎ合わせが自在で。その見せ方がほかとは全然違った印象なんです。アニメーションでこういうことをやれる人ってほかにいないよなと思いました」 『東京ゴッドファーザーズ』制作中に、今監督から、テレビアニメ『妄想代理人』のキャラクターデザインを頼まれる。慎重派の安藤さんは「とりあえずメインキャラを描いてみる」と答えた。 「シナリオだけもらって、ここからイメージするキャラクターをつくってほしいと言われて。人間動物園のような感じで、と。触発されるままに(主要キャラの)月子や猪狩を描いていったら、今さんがおもしろがってくれて。それが心地よかった。キャラクターデザインをしたのはこのときが初めてでしたけど、これを喜んでもらえるってすごくうれしいなと思いました」