「つくるのが好きとはまだ言えない」――ジブリ出身、53歳の新人監督・安藤雅司のアニメーション哲学
安藤雅司さん(53)は「若くして『もののけ姫』の作画監督を務めたアニメーター」として有名だ。作画監督は作品のクオリティーを決める重要なポジション。ジブリをやめたあとは、今敏監督の『パプリカ』や新海誠監督の『君の名は。』など、世界的に評価される作品を、献身的な仕事ぶりで支えてきた。今回、初監督に挑戦した安藤さんに、偉大な監督との葛藤やアニメーターとしての矜恃を聞いた。(取材・文:長瀬千雅/撮影:伊藤菜々子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
監督と作画監督の兼任はしんどい
53歳の監督デビューである。21歳でスタジオジブリに入ってから32年間、アニメーションの絵を描き続けてきた。「自分の本質はアニメーター」と言ったのは宮崎駿監督だが、安藤雅司さんは自らを「絵描き」と呼ぶ。その安藤さんが、『鹿の王』(上橋菜穂子著)という原作を得て、初めて監督に挑戦した(宮地昌幸さんと共同監督)。 「監督の役職とアニメーターの役職は、リンクする部分はあるものの、やっぱり違うと気づかされることがとても多かったです。特に今回は、初監督でありながら作画監督も兼任してしまったこともありますが」 アニメーション制作は脚本、演出、作画、美術、音楽、CG、撮影などの工程に分かれ、それぞれに専門家がいる。安藤さんは「作画」のプロフェッショナルだ。監督と作画監督はしばしば緊張関係にある。監督はイメージするシーンを求めて、ときに難しい動きを要求する。 「作画監督を誰かにお任せしたほうが、理想に対してより純粋になれたのかなという気もします。(兼任していると)監督として要求したい演出があったとしても、『作画監督の俺はどこまでできるんだろう』ということを一緒に考えてしまう。監督として『もっとああしてこうして』とドライに要求して、作画監督に『それはできないよ』と反発されるというやりとりをしたかったなっていう(笑)。 自分で自分を追い込むことになるので、そのへんは本当にしんどかったですね。もちろん非常に素晴らしいスタッフが集まってくれたので、お任せする部分も多かったのですが、いかんせん作監と監督を行ったり来たり、どたばたしながら作業をしていたので、監督として采配していくという難しさを実感しました」