“絶滅危惧楽器”バンドネオン奏者の三浦一馬、ふたりの師匠に出会うまでの行動力がスゴい
17年に立ち上げた「東京グランド・ソロイスツ」
マルコーニの薫陶を受けた三浦さんは、ますますバンドネオンの腕に磨きをかけていく。そして18歳のとき、イタリアで開催された第33回国際ピアソラ・コンクールで、日本人初、史上最年少で準優勝を成し遂げた。 ちなみに“ピアソラ”とは、アルゼンチンのタンゴ作曲家で、バンドネオン奏者のアストル・ピアソラのこと。2021年に生誕100年を迎え、1992年の没後も多大な影響力を放ち続ける巨匠のすごさとは? 三浦:ピアソラという人を語り尽くせることはありません。作曲家、バンドネオン奏者、音楽家として、あまりに大きな存在だからです。タンゴは、彼によってあまりにも革新的にアップデートされていきました。当初は批判的な声があったにせよ、今日ではピアソラの音楽こそが、モダンタンゴだと言われているくらいです。ピアソラは、かつて歌の伴奏、踊りの伴奏といった側面が根強かったタンゴを、芸術作品としての音楽へと昇華していきました。しかも、国際人である彼は、クラシック、ジャズ、ポップスなど、自分が世界中で見て触れた音楽の良いところを取り入れることに注力した。そのため、タンゴの中に現代的なエッセンスや、世界中の誰が聞いても良いと思える普遍性をしっかりと溶け込ませているんです。そこがピアソラの偉大なところだと思います。 ピアソラは、タンゴをもとにクラシック、ジャズの要素を融合させ、独自の演奏形態を産み出した「タンゴの革命家」と呼ばれる人物だ。そんな偉大な先達の情熱を受け継ぐ形で、三浦さんが2017年に立ち上げたのが、室内オーケストラ「東京グランド・ソロイスツ」(TGS)。同楽団への思いとは? 三浦: TGSでは2017年の旗揚げ以来、毎年夏に1回、東京晴海の第一生命ホールを本拠地として定期公演を行っています。ピアソラにフォーカスする中で、その音楽を追求するのはもちろんですが、彼がその生涯において常に大事にしてきたことは、“新しい形への変化”だと思うんです。作曲した楽曲をずっとそのまま弾き続ける。それも一つの形ですけど、ピアソラは、自分の作品を雰囲気だけでなく編成さえも、年代ごとにガラッと変わるくらい作り直していました。だから、私自身もピアソラと向き合うとき、彼が弾いていたことを一言一句なぞるのではなく、現代に合うようにアップデートしていきたいんです。大げさな話かもしれませんが、それこそが、私に課せられた使命というか。この先も、ピアソラが生き続けていくことに繋がるのではないかと思うんです。そんな思いから、ピアソラの様々な名曲を、僕のバンドネオンに、ストリングス、アンサンブル、ピアノ、エレキギター、パーカッションを加えた20人規模の小さなオーケストラを編成し、現代的なエッセンスなど加えながらアプローチしています。