SDGsの「S」と、75歳オーバーのばあちゃんたちがイキイキ働くローカルベンチャー
これからも取り組みを伝えていく必要はある。だが、コト消費からモノ消費に変えていかないといけない。モノとしてのクオリティを磨き、「モノから入った人にコトにも関心を持ってもらう」という、これまでとは逆の流れを作りたい。これが大熊さんの考えのようだ。 いくらいいことをやっていても、モノが弱いと再現性も、持続可能性も持たせられない。やはり常に「ビジネスをやっている」という考えを念頭に置く必要がある。
社会に対してものを言う以上は結果で示したい
ところで、大熊さん自身はなぜこんなに大変なことに本気で挑み続けるのか。持続的な活動のためには、取り組む当人のモチベーションも持続的であることが不可欠のはずだ。 大熊さんのキャリアを振り返ると、もともとは叩き上げのデザイナーだ。以前は商業デザインの世界にいて、「ただただ儲けるためにデザインをやっていた」という。 「結果を出せなければ即クライアントから切られる世界。そのために企画もデザインも毎回死ぬ思いをして捻り出す。一方でエンドユーザーと直接関わることはほとんどなかった。そんな世界に虚しさを感じて、もっと直接人のためになることをやりたくなりました」 そんな大熊さんを突き動かす一番の原動力は、ばあちゃんたちの笑顔だ。 「きれいごとに聞こえるかもしれないですけど、幸せなのは、誰かに必要とされているとき。今はばあちゃんたちに必要とされていると感じるんで、幸せですよね」
大熊さんとばあちゃんたちの関係は、「経営者と従業員」といった一面的なものではない。ばあちゃんたちに何かを施すという一方的なものでもない。時にはばあちゃんたちに説教され、つっ込まれ、そのことによって元気をもらってもいるという大熊さん。その関係性は見ていても伝わってくる。 「ばあちゃんたちと知り合い、一緒に働き、学園祭に出店して、お客さんに喜んでもらえて......それだけで満足。個人的にはこのままスケールしなくても構わない」という大熊さんが、それでも頑張っているのは意地でもある。それは「社会に対してものを言っている以上は結果で示したい」という意地だ。 「もともとがデザイナーだから、課題ありきの課題解決思考。誰かが喜ぶとか、誰かのためになるとかで力が出るタイプなんです。逆に言えば、自分自身がやりたいことは何一つないんですよ。あえて言うなら、ラーメン屋か、宿をやってみたいかなあ。 でも、それも何かをなし得てからの話ですよね」
取材・執筆 : 鈴木陸夫 取材・編集 : 日向コイケ(Huuuu) 撮影 : 大塚淑子