SDGsの「S」と、75歳オーバーのばあちゃんたちがイキイキ働くローカルベンチャー
うきはの宝を立ち上げて忙しくなったことやコロナ禍があり、このボランティア活動は実際に止めざるを得なくなった。利用者だった高齢者からは、その後も助けを求める電話がかかってくるという。 「僕以外の人と接点がなかったり体も悪かったりして、この会社で働くばあちゃんたち以上に孤立した人たちなんで。電話がかかってくるたびに、やっぱり心が痛みますよ。関わったせめてもの責任として、今は大熊充個人としてケアし続けてるんですけど」 かくして持続可能性は、大熊さんの主要な関心事に。社会起業について学び直し、ビジネスとして課題解決に再挑戦することにした。 大熊さんが考えるビジネスとは仕組み化だ。仕組みがしっかりしていれば、自分が倒れても他の誰かが続けることができる。 某アイドル事務所に倣って考案した「Jr.システム」も、持続性を担保する仕組みの一つ。うきはの宝では、75歳以上のばあちゃんのサポートを75歳未満の「ばあちゃんJr.」が行っている。「Jr.」は年が経てば自動的に「ばあちゃん」に昇格するから、半永久的。実際、現体制のリーダー的存在である国武トキエさんは、5年前の創業当時は「Jr.」だった。
仕組み化できれば、爆発的に広がるのがビジネス
内閣府の「高齢社会白書」(2023年版)によると、22年10月1日現在、総人口に占める65歳以上の割合は29.0%で、75歳以上は15.5%。人口に占める労働者の割合は65~69歳が52.0%なのに対し、75歳以上は11.0%にとどまる。 厚生労働省の調査(22年6月現在)では、70歳以上でも働ける制度を設ける企業は39.1%。21年4月には、70歳までの就労機会確保を企業の努力義務とした改正高年齢者雇用安定法が施行され、国も環境整備に本腰を入れ始めたが、なかなか進んでいない現状にある。 大熊さんが考える、高齢者の雇用がなかなか進まない理由の一つは、"平等"な国の制度のあり方という。雇用保険に加入できるのは、週平均20時間以上の労働が条件で一律。一方、ばあちゃんたちの体力を考えると週8~15時間労働が目安だから、雇用とは見做されない。 「最低賃金も一律ゆえに、お互いが望んでも働けないケースもあります。多様な人が輝く社会を目指すなら、ルールも多様である必要があるのでは?」と、大熊さんは国に継続的に働きかけている。 高齢者の雇用が進まないもう一つの理由は、本気で取り組むリーダー(大熊さんのポジションを担う人)がいないこと。 大熊さんのもとには、うきはの宝の噂を聞きつけた全国の自治体、企業、起業家予備軍、地域おこし協力隊などからコンサル・講演の依頼が絶えない。だが、うまくいかないことも多いのだという。