SDGsの「S」と、75歳オーバーのばあちゃんたちがイキイキ働くローカルベンチャー
しかし、正直なことを言えば、事前のイメージからするとやや肩透かしを食らった感じも否めなかった。過去記事には「最大20人のばあちゃんがそれぞれ異なる個性を発揮して働く」とあった。現在のレギュラーメンバーはこの日の2人を含めた計5人。その他に不定期で関わるばあちゃんが数人いるものの、一時期よりはだいぶ規模を縮小して活動しているようだ。 それにはいくつかの理由があった。 一つは、拙速な採用拡大の見直し。送迎サービスを運営していた大熊さんは市内のほとんどの高齢者と知り合い。だから大熊さんを慕って「働きたい」という高齢者は山ほどいる。希望に応えたい大熊さんは採用を拡大、最大で20人の大所帯になった。 ところが拙速な拡大がばあちゃん同士の派閥争いにつながり、収拾のつかない事態に。外から見ていたのではわからない人間関係は大熊さんにとって学びになった。 「表面上は普通に会話しているから、てっきり仲がいいものかと勘違いしてしまって。実際は住んでいる地区が違うというだけでバッチバチなんですよ。僕からすれば意味不明なんですけど。結局、揉めごとの中心にいた人が自然と去るようなかたちで収束しました」 話題を呼んだ食堂も、コロナウィルスの影響で閉店を余儀なくされた。しかし、悪いことばかりではない。いくつかの"失敗"を経たことで、現在のばあちゃんたちは精鋭揃い。コミュニケーションが円滑で、お互いの関係も良好だ。また、利益率の高い事業に絞った結果、規模としては小さいがうまく回っている。 コロナ直撃で赤字だった1期目を除けば毎年黒字。大熊さんも「これ一本で食っている」。
ある日突然ハシゴを外すようなことはしたくない
うきはの宝がこの5年で経験してきたようなトラブルはビジネスにつきものかもしれない。高齢者の雇用を生むだけなら非営利でやる手もある。 だが、大熊さんはビジネスであることにこだわっている。マルシェに出店するとなれば「売上ノルマは6万円!」などと言って、ばあちゃんたちにプレッシャーをかける。日常から数字が飛び交う。「ぬるいことをするつもりはない」という。 大熊さんがビジネスにこだわるのは、持続可能性を考えてのことだ。うきはの宝創業以前は、困りごと解決のボランティアもしていた大熊さん。そのときの反省が今の活動に反映されている。 「その活動で助かる人はたくさんいたし、感謝されるから、自分としても気持ちがいい。でも、本業のデザイナー活動で貯めた自己資金を投じる活動には、いずれ終わりがやってくることがわかっていました。ちょっとのあいだだけ助けて気持ちよくなって終わりでは、結局自己満足なんじゃないかという葛藤がありました」