SDGsの「S」と、75歳オーバーのばあちゃんたちがイキイキ働くローカルベンチャー
右も山。左も山。そのあいだをうねうねとした細い道が行く。福岡県うきは市は、大分県との県境近くにある自然豊かな農業のまちだ。ブドウ、イチゴ、ナシ、カキ、モモなど、一年中採れるフルーツが特産品という。 うきは市のもう一つの特徴は、進む高齢化。27000人弱の総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は36.2%と、全国平均(28.7%)と比べてひときわ高い。2045年には44.9%に達する見込み。要するに、3人に1人以上は高齢者ということになる。
そんな高齢化の進むまちに居を構える創業5年のベンチャー企業・うきはの宝は「75歳以上のばあちゃんたちが働く会社」として全国的に注目を集める。人口減少による労働力不足の懸念から、まだまだ元気に働ける高齢者をいかに包摂するかは日本が抱える喫緊の課題。そのモデルケースとして、代表の大熊 充(おおくま みつる)さんには講演依頼が絶えない。 実は、SDGsの17の目標および169のターゲットに、高齢化社会の問題を真正面から扱ったものはない(スローガン「誰も置き去りにしない」に照らせば、関係するのは間違いないが)。大熊さんが同社を立ち上げたのも「あくまで地元のばあちゃんたちが抱える課題を解決するためであって、SDGsは念頭になかった」という。 では、なぜ今回うきはの宝を取材するのか。それはSDGsの「S」について改めて考えるためだ。どんなに高い志を持った活動も一過性で終わってしまっては意味をなさない。どうすれば持続的に課題と向き合い続けることができるのかを考えたい。 それこそがまさに、大熊さんがうきはの宝を作った背景にある問題意識でもあった。
ばあちゃんたちの「孤立」と「困窮」を解決する
ばあちゃんたち(大熊さんによる愛情たっぷりの呼び方にあえて倣おう)が元気にイキイキ働く会社として、うきはの宝は創業直後から注目を集めた。 最初に始めたのは、ばあちゃんたちが地元の郷土料理を振る舞う食堂。続いて編み物ブランド、惣菜の製造・卸、伝統技能のワークショップなど。いずれもばあちゃんたちが得意なこと(知財)を仕事にしているところに特徴がある。 11月にスタートした新サービス「ばあちゃん新聞 」は、こうしたばあちゃんたちが持つ知財をより直接的に届ける目的で創刊した。 「日々ばあちゃんたちと接していると、すごく深いことを言ってるんですよ。わかりやすいのは戦争体験。ほかにも土地に根付いている風習だったり考え方だったり。その時々で楽しく聞いてはいるけれど、僕だけに留めておくのはもったいない。商売にすれば、それを残せるんじゃないかなって」(大熊さん)