映画「ホテル・ルワンダ」の舞台に不法移民を送り込む…英国の計画に物議 安住できるか?大虐殺乗り越え「奇跡」の復興遂げた国の実情とは
ルワンダ政府には、大虐殺という負のイメージを払拭し、難民問題に貢献する国を目指したいという思いがある。ただ、カガメ政権は野党弾圧などの強権的な側面も問題視される。移送計画を巡っても「自国に送還しない」との英政府との合意が守られない懸念がある。 難民問題を担当するルワンダ緊急事態省のハビンシュティ次官は取材に対し「強制送還は絶対にない」と断言した。「ルワンダ国民は自らが難民となり、他国に支援された経験がある。だからこそ支援を進め、アフリカの中で難民問題の解決に貢献できる国になりたい」とも強調した。 だが、計画により苦境に追い込まれた人もいる。受け入れ先の宿泊施設には元々、大虐殺で家族や住居を失った人々が生活していたが、英国との計画合意に伴い退去を強いられた。居住者らにはルワンダ政府からわずかな生活支援金が支払われただけだという。 UNHCRルワンダ事務所のリリー・カーライル報道官は、ルワンダ政府の努力を評価しつつも「包括的な支援策はあるが、資金や制度が不十分だ」と指摘する。難民たちの雇用の機会は乏しく、社会統合も容易ではない。先進国のような経済的な恩恵を受けられる状況ではないという。
移民移送計画ついては、亡命申請者を保護するという「国際的な連帯と責任分担の基本原則」に反し、責任を他国に転嫁する英国の方針に一番の問題があるとして、厳しい目を向けた。亡命申請の審査手続きにUNHCRが関与せず、ルワンダ政府が独自で実施することも問題視した。 ▽英政権に内外から圧力 スナク政権が計画の実現にこだわる理由の一つは、年内にも実施される見通しの総選挙だ。不法移民に反感を抱く保守派支持層にアピールしたいとの狙いがある。保守党は最大野党の労働党に支持率で大きくリードされ、下野が現実味を帯びている。 ただ、実現に向けて成立を目指す法案を巡っては、保守党内でも意見が対立した。一部の強硬右派が「欧州人権裁を完全に無視できるよう、もっと厳しい内容に修正するべきだ」と主張する一方、穏健派は修正されれば法案には賛成しないと反発し、党内の亀裂の深さが露呈した。 強硬派の圧力があったものの、英下院は2024年1月、賛成多数で法案を可決した。法案は上院で審議されている。世襲貴族や宗教貴族らにより構成される上院は、下院を通過した法案に超党派や良識者の立場から修正を加えることが任務で、上院の国際協定委員会からはルワンダの安全性が確証できるまで「議会は移送条約を批准しないように」との提言もなされた。審議には時間がかかりそうで、成立の時期は見通せない。
追い打ちをかけるように、英紙オブザーバーが1月下旬、英内務省が昨年、迫害の恐れがあるとしてルワンダの野党支持者ら4人を難民認定していたと報じた。オブザーバーは、この難民認定について「ルワンダは安全だという政府の主張に疑問を投げかけるものだ」と指摘した。 最初の協定締結から約2年となる中、ルワンダ側もいら立ちを見せ始めている。英メディアによると、英政府は昨年末までに計2億4000万ポンド(約450億円)をルワンダ政府に支払っているが、カガメ氏は今年1月、資金は受け入れが実現した時に使われるもので「移民が来なければ返すこともできる」と述べ、英側に早急な対応を迫った。