地下鉄サリン事件から30年 国は総括的な徹底検証を 政府ができないなら国会で サンデー正論
「各関係分野の専門家たちが横の連携を取りながら、事件の背景を含めた全体像に関し、『総合的・俯瞰(ふかん)的・横断的』な調査研究を行ったということはなかったのではないか。今後必要になってくるのは、まさに、そういう総合力の発揮である。それがあって始めて、この『オウム真理教事件』という未曾有(みぞう)の大事件の全容が明らかにされ、その教訓を後世に残る形で示すことが出来るのだと思う」
筆者は2001(平成13)年9月11日に米ニューヨークに住んでおり、中枢同時テロ事件で世界貿易センタービルが崩壊するのを目撃した。「オウム真理教事件」とは異なり米国では独立調査委員会が設置された。04年7月に最終報告書を発表するまでの1年半余りの間に12回の公聴会を開催し、160人の要人、専門家を招いた。出席者にはコリン・パウエル国務長官、ドナルド・ラムズフェルド国防長官も含まれた。
最終報告書は500ページを超え、米政府にはイスラム原理主義勢力によるテロ活動が米国にとって新たな脅威であるか政府高官の認識が十分ではなかったほか、情報コミュニティーの運営にも大きな問題があったことを指摘した。
その上で情報コミュニティーを統合する国家情報長官やイスラム原理主義勢力に対する戦略的情報収集活動と作戦計画を統合する国家テロ対策センターの新設などを提言した。ブッシュ政権は情報活動改革テロリズム予防法で、提言を実行に移した。
■安倍元首相の悲劇もまた
2つの事件を比較すると日本と米国の違いが鮮明となる。米国では大事件が起きた時、徹底検証し、責任者は責任を取る。その作業が日本ではいまだにできていないことを示したのが安倍元首相の暗殺だ。
警察庁は令和4年8月に「警護についての検証及び警護の見直しに関する報告書」をまとめ、中村格警察庁長官らが引責辞任した。しかし、それは警備のあり方に限ったもので、犯人と宗教団体との関係など背景、危機管理体制のあり方も含めた徹底検証は政府、国会も含めて行われなかった。