所沢中央・諸井雄一コーチ「ラクロスからサッカー指導者へ」
埼玉県立所沢中央高校サッカー部に異色のキャリアを持った指導者がいる。諸井雄一教諭はサッカーの選手経験こそないが、監督、コーチとしての指導歴は14年になる。「公立校でも面白いと言われるチームをつくりたい」と昨春赴任した新天地での目標を口にする。 【フォトギャラリー】所沢中央・諸井雄一コーチ 埼玉県入間市出身の諸井コーチは小学校から野球に熱中し、狭山ヶ丘高校では外野手として活躍した。しかし関東学生リーグ1部の強豪、獨協大学進学後は“異業種”のラクロスに取り組み、2年生の時にはU-20関東選抜の一員に選ばれ、各地区の選抜で争う全国大会を制した。 なぜ、なじみの薄いラクロスを始めたのか? 「野球ではなし遂げられなかったので、1度くらいは何かで頂点に立ちたかったんです。ラクロスは大学から始める初心者がほとんどで、練習した分だけ力が付いて上達するスポーツ。これがだいご味のひとつでした」 2028年のロサンゼルス五輪では、開催都市提案による追加種目として実施される。 就職活動の末、一般企業に内定していたが3週間行った教育実習で達成感に浸り、内定を辞退して教員の道を選んだ。しかし希望した埼玉県の公立学校教員採用選考試験には受からず、右も左も分からない愛知県のテストに挑戦したら合格した。 11年に初任地の旭野高校(尾張旭市)に着任すると、いきなりサッカー部の監督を任された。諸井コーチは「私のほかにOBの大学生がひとりいただけです」と苦笑いし、「何の手づるもなかったが、片っ端から電話をして練習試合の手配もしました」と振り返る。 サッカー経験がないハンディをどうやって克服したのだろう。「ラクロスもサッカーと同じグループ競技なので、似ているところがあります。攻撃のやり方、相手守備の崩し方など共通する基本的なことを伝えました」と説明する。 結果が出るまでつらい日々が続いたそうだが、1年目の新人大会で中堅の愛知高校を撃破した。勝つことの喜び、番狂わせを起こす楽しさにひかれ、すっかりサッカーのとりこになった。13年に日本協会公認の指導者資格C級、15年にB級を取得。サッカー指導者への道をひたすら突き進むことになった。 旭野高校に6年勤務した後、長久手高校(長久手市)に転勤し、松田竜至監督の参謀として6年間学んだ。「勝負に徹し、スキのないチームをつくるのがうまい監督さんです。毎日の練習の質が高く、とても勉強になりました」と述懐する。 18年には愛知県協会指導者養成の地区ダイレクターとして、主に中学生の指導に当たった。 県内でも中堅の指導者として地位を獲得していた折、父親が亡くなった。「いずれは地元に戻りたいと考えていたので、(22年に)埼玉の教員試験に再度挑戦し合格しました」。06年の関東高校大会予選を制し、本大会でベスト8入りした所沢中央高が初任地となり昨春、地元への“帰参”がかなった。 1年目は1年生チームと全体のセカンドチームを指導し、今年8月 に結成した新チームからはトップチームのコーチを担当。中曽根健監督、一昨年まで監督だったベテランの八木原秀哲コーチとともに、全国高校選手権や全国高校総体の両予選でベスト16入りを目指して強化に粉骨砕身する毎日だ。 チームづくりの基本は守りだという。「いい守備ができてこそ質の高い攻撃が生まれるという成功体験があるので、まず連動した組織的な守備の構築を考えています」と説明する。その上で「テクニック、ファイティングスピリット、ハードワークの3つをテーマに掲げているんです」と人懐っこい顔付きでうれしそうに答えた。 所沢中央高に赴任して13年目の中曽根監督は「ものすごく熱い男。情熱を持って常に100パーセントで選手と向き合っています」と諸井コーチを評する。サッカー経験のなさを感じることがあるか尋ねると、「全くありませんね。いったい、いつ、どれだけ勉強したんだろうって感心するほどです。本当にリスペクトしています」と述べた。 新チームのFW飯島拓也主将(2年)も「とても熱心な先生。選手の意見を聞いてくれてやりやすいし、指導法が丁寧で理解するまで教えてくれます」と感謝した。 コミュニケーション能力の高い諸井コーチは、旭野高校でもそうだったように練習試合をセットするのが得意だ。中曽根監督に戦い方を提案し、八木原コーチを含めて話し合いの中から戦術を決めるという。 今年から埼玉県高体連技術部のメンバーに加わり、西部U-16トレセンコーチをはじめマッチレポートの作成や優秀選手選考を担当。11月の第103回全国高校選手権埼玉予選準々決勝では、浦和東-正智深谷のマッチレポートを書くなど、埼玉に来てまだ2年だというのに早くも厚い信任を獲得した。 当面の目標については「西部地区は強豪私立が多いが、公立でも頑張れるチームをつくりたい。この学校で勝負したいですね」と意欲を示す。新春1月18日に開幕する新人大会西部支部予選に向け「まずは初戦をしっかり勝ち抜き、2回戦で狭山ヶ丘に挑みたい」と新進気鋭の37歳は力こぶを入れた。 (文・写真=河野正)