岩屋外務大臣 クリスマスの「弾丸訪中」から占う2025年の日中関係
2024年12月24日午後10時半。街がイルミネーションで華やぐクリスマスイブの夜に、グレーヘアの男性が羽田空港へと入っていく。日本の外交を司る、岩屋毅(いわや・たけし)外務大臣だ。岩屋大臣を乗せた飛行機はほどなく離陸。日付が変わった現地時間25日午前2時に、北京首都空港に着陸した。日本の外務大臣の北京訪問は実に1年8カ月ぶり。クリスマスの「弾丸訪中」の始まりだ。このわずか20時間足らずの訪中からは、好転し始めた関係を軌道に乗せようという、日中両国の意欲が感じられた。 中国便り29号 ANN中国総局長 冨坂範明 2024年12月
■日中関係「再スタート」強調 印象的な李強首相の笑顔
同25日午前9時。ホテルで数時間の休憩を取った後、岩屋大臣が記者たちの前に姿を現した。意気込みを聞かれた岩屋大臣は、少し立ち止まってこう答えた。 「実りある会談に是非したい。日中の再スタートの会談にしたいと思っております。」 日中間の外相往来が途絶えた最大の原因は、2023年8月から始まった福島第一原発の処理水の問題だ。中国は処理水を「汚染水」と呼んで猛反発、対抗措置として日本産水産物の輸入を即禁止し、相互往来もストップした。しかし、今年9月に風向きが変わる。中国が日本産水産物の輸入再開に向けた検査手続きに入ることで合意したのだ。 「処理水放出に反対する国際世論が全然広がらなかったのが誤算だったのだろう。中国も本音は出口を探していた」というのは、日中外交筋の見立てだ。 その後就任した石破茂総理は10月にラオスで李強首相と、11月にペルーで習近平国家主席と会談。そしてこの12月の岩屋大臣訪中へと日中対話の流れは続いていた。こういった経緯を踏まえ、岩屋大臣は「再スタート」という言葉を使ったのだろう。 その足で岩屋大臣が向かったのは、人民大会堂での李強首相への表敬訪問。出迎えた李強首相の満面の笑顔が印象的だった。
■“同名”の王毅外相と3時間 成果は「早期訪日」「牛と米」
同25日午前11時 表敬を終えた岩屋大臣は中国の迎賓館、釣魚台へと移動する。直接のカウンターパートである、中国外交トップ・王毅外相との会談に臨むためだ。 偶然だが、岩屋氏も王氏も名前の漢字は同じ「毅」。かつて会談で話題に上ったこともあるという。 “同名”の外相同士の会談は、ワーキングランチも入れて3時間にも及んだ。王毅外相は「来年の最も早い適切な時期」に訪日することに合意し、調整が進められることになった。 さらに会談では、中国の日本産牛肉の輸入再開、精米の輸入拡大に向け、協議の早期再開が確認された。 日本産牛肉に関しては、BSE(牛海綿状脳症)騒動があった2001年以来輸入が止まっていて、日本の畜産農家の“悲願”となっている。 また、コメに関しても、年末に北京で「郷土料理フェア」が開催された際に、新潟米のおにぎりがふるまわれ、北京の人たちはみな一様に「おいしい」と舌鼓を打っていた。中国の消費者の中にも、美味しい日本の農産物をもっと食べたい人は多いだろう。 一方で、外相会談では日本側から尖閣諸島をめぐる東シナ海情勢や、「反スパイ法」による邦人拘束の問題などについてはこれまで同様、深刻な懸念が伝えられた。また新たに、与那国島南方の排他的経済水域で発見された中国のブイについても抗議した。ただし、友好ムードを強調したい思惑からか、これらの懸念や抗議について中国の官製メディアはほとんど報じていない。