ニュースでよく見る「バーチャルリアリティ」ってどんなもの?
さて、ゴーグルを装着して周囲を見渡すと、前後左右、そして上下ともに視界が広がり、ゴーグル内に“世界”が再現されます。これが真正面にしか映像が映らないテレビやディスプレイと違う一番大きな特徴でしょう。 「360度の視界」と言われることもありますが、360度の視界だけでは左右に広がりがあるだけです。それはいわゆる「パノラマ」です。「パノラマ」と区別するために、上下左右にも視界が広がった映像を「全天球イメージ」という言い方をすることもあります。 「全天球イメージ」と言えども、立体感がなければ、内側に絵の描かれた球のなかにいるようなものです。しかし、そこに立体感が演出されると、まさに現実世界に立っているような錯覚が起きます。現在のVRデバイスでは、これを「立体視」で実現しています。「立体視」というのは、微妙に左右にずらして撮影(ステレオ撮影)した写真を、それぞれ左目と右目に別々に見せることで、脳に映る絵を浮き上がらせる方法です。寄り目にして見る「交差法」、ぼーっと遠くを見る「平行法」など、一時期、ブームになりました。立体視の仕組みは、その「平行法」です。 全天球が立体で見えても、周囲が動かない静止画であれば、それは時間が止まった世界のなかにたたずんでいる自分でしかありません。しかし、世界が動いていたならば、それは私たちが現実で見る世界と同じに近づいていきます。 私たちが接している「現実」は、視覚映像だけで構成されているでしょうか? 音も聞こえているはずです。しかも、音は一方向からのみ聞こえているわけではありません。左右の音を聞き分ける「ステレオ録音」は日常的ですが、「全天球イメージ」の中にいる自分は、背後から音が聞こえてくるかもしれませんね。これを「バイノーラル録音」と言います。
視覚と聴覚だけでなく、ここに嗅覚や温度などが加わっていくと、さらに現実に近い仮想世界が構成されていくでしょう。バラ園にいるときは「バラの香り」が、カレー店にいるときは「カレーの匂い」がするといった具合です。技術的にはそう難しくなさそうです。 研究はさらに遠くを見据えています。ゴーグルの目の前に見える人や樹木に触ったら、触っている感触が体験できるような取り組みが国内外で進んでいます。 こうして私たちの五感をはじめとした身体感覚をデジタル環境で再現し、現実に近づけていけばいくほど、それが現実なのか、仮想世界なのか境目が分かりにくくなって行きます。 夢なのか現実なのかは、「ほっぺたをつねって見分けろ」と言われます。しかし、VRの世界では、ほっぺたをつねると痛いので、見分けがつきにくくなるかもしれませんね。