正しい知識を身につけ、山を楽しむ。ツキノワグマってどんな動物?
正しい知識を身につけ、山を楽しむ。ツキノワグマってどんな動物?
山歩きをするうえで、気になる野生動物情報。とくにクマは、私たち登山者が正しい知識を得て対処法を身につけることが重要になります。
ツキノワグマってどんな動物?
体長(鼻先から尻までの長さ)は100~150㎝。体高(地面から肩までの高さ)は秋田犬とおなじくらい。50mを3秒(時速60㎞)で走るほど足が速い。胸に月の輪のマークがあり、嗅覚は犬よりも鋭い。
教えてくれたのは
近藤麻美さん 秋田県自然保護課・ツキノワグマ被害対策支援センター/大学時代からクマの研究に携わり、2020年からはクマの知識をもつ専門職員として勤務。ツキノワグマの被害調査のほか、クマの正しい知識を伝える普及活動なども行なう。
クマに出会わないことも、身につけておくべき登山スキル
――昨今、クマに関するニュースをよく目にするようになり、登山をする多くの人たちは、漠然とした不安を抱えているようです。ここでは、クマに関してのさまざまな知識を教えていただけたらと思います。 近藤 まずは、山に一歩入るということは、すでにクマの生息するエリアに足をふみ入れているということ。それは、ここ最近に始まった話ではなく、昔からずっと変わらないことです。人の暮らす集落などでは、クマの目撃情報があると「クマが出没した」という言葉が使われますが、山のなかでは、それはまったく当てはまらないものになります。大前提として、「クマに出会わないことも、登山を楽しむための大切なスキル」であるということを、しっかりと頭に入れておいてほしいなと思います。 ――なるほど、登山をする前に知っておくべきスキルのひとつですね。具体的には、どのようなことを登山者は身につけておくことが大切になりますか? 近藤 ひとつは、クマについて正しく知ることです。クマは学習能力が高い動物であり、人に対してはある程度の警戒心をもっています。人の暮らす集落では、散歩をしている人や行き来するクルマは、自分に対して危害を加えないものだと認識していたりするので、逃げない場合もあります。とはいえクマも、人と至近距離で会いたいとは思っていないので、登山者に対しても距離をとりながら、その動きをよく見ているでしょう。山のなかでの人身事故の事例としては、単独で静かに行動していて、クマと鉢合わせした結果、事故に遭ってしまうというケースが多いです。 ――クマと鉢合わせてしまうことを避けるためには、どのような行動をとるのが効果的ですか? 近藤 登山では、見通しのよいルートを選ぶこともひとつですが、まずは人がいることをクマに知らせるための音を出すことが基本になります。バックパックに熊鈴を付けて鳴らすほか、歩きながらラジオを流したり、おしゃべりをしたり、見通しの悪いところで手を叩いたり、大声を出したり。また、ひとりでの登山は避けて、グループで歩くことも有効です。グループ登山は、会話をしながら歩くため人の気配が増し、クマと出会いにくいことに加え、急病や滑落など、万が一のときに助け合えるというメリットもあります。雨の日や風の強いとき、沢の近くなどは音が聞こえにくいため、大きな音を出すことを意識するとよいですね。ザックカバーをしていると、熊鈴の音が響かないことが多いので、付ける場所も意識するとよいでしょう。それらの音を聞いて、人がクマに気がつく前に、クマのほうから人をよけてくれるはずです。 ――すぐにでも実践できることばかりですね。熊鈴も有効であると聞いて、安心しました。 近藤 もうひとつ、食べ残しのゴミを山のなかに残さないこともとても重要です。落ちているゴミをあさり、人間の食べものを食べてしまうことで、その性質がガラリと変わる個体もいます。たとえ自分が襲われなかったとしても、一回の成功体験が、また次の行動へとつながり、食べものを求めて人を襲ってしまうことがあります。登山者が往来する場所は、本来クマの生息地であることから、原則として有害鳥獣捕獲は行なわれないエリアです。たとえワナを仕かけたとしても、捕獲すべき個体とは別の個体を捕獲してしまう可能性もあります。秋田県では、人と食べものを結びつける学習をしたなど、人に積極的に接近し攻撃をするような危険なタイプのクマがいるとわかっている地域は、入山禁止にしています。そのルールはしっかりと守っていただければと思います。あくまでも、そこは、さまざまな野生生物が暮らしている山のなかであることをいつでも忘れてはいけません。 ――これから先も、登山を楽しみたい私たち人間とクマは、どのような関係であるべき でしょうか? 近藤 クマに対して、やみくもに怖がるのではなく、正しく怖がることが大切です。そのためには、よく知り、必要な対策と準備をしっかりと行なう。クマ対策は、地図読みや観天望気、ファーストエイドなどと同様の、リスクマネジメントのひとつだと考えてみてください。人身事故が多数発生している里や集落では、人とクマとの距離は、検証と対策をくり返しながら適切に確保していくべきですが、登山エリアでは、その距離を遠ざける方法はありません。人間がより賢くなり、正しい情報を得ながら、一人ひとりが考え行動し、登山を楽しんでもらえたらよいのではないでしょうか。 \ランドネ最新号のご購入はコチラをチェック! /。