考察『光る君へ』37話 帝(塩野瑛久)「三十三帖か。大作であるな」まひろ(吉高由里子)「まだ続きがございます」光源氏の罪と罰の物語がここから始まる!
今週も伊周は呪詛
敦成親王の出生を受け、伊周(三浦翔平)の屋敷に集まったのは高階光子(兵藤公美)と伊周の妻・幾子(松田るか)の兄、源方理(みなもとのかたまさ/阿部翔平)。光子は伊周の母・貴子(板谷由夏)の妹だ。このままでは敦康親王が東宮になれないかもしれない、どうするのだと焦って詰め寄るふたりに「お黙りを」と制した伊周だが、今週も人知れず呪詛を繰り返す。 兼家(段田安則)をひたすら呪詛していた明子(瀧内公美)もそうだったが、敵に対して実際に何か手を下せるような力があるわけでなく、頼もしい同志がいるわけでもなく。呪うにしろ、国一番の陰陽師に呪詛を命じることもできず。 ただひたすら人形を刻むことしかできない、この作品における伊周の無力が哀れだ。
長生きしてね
藤壺の局に戻ってからも、まひろの『源氏物語』執筆は深夜まで続く。相変わらず同僚のいびきは響くが、以前より環境に慣れたせいか集中できているようだ。 「三の宮はまだ幼く、ただ私一人を頼みとしてきたので……」 おお! 三十四帖「若菜(上)」を書いている。この台詞は、光源氏の兄・朱雀院のものだ。光源氏の六条院での行幸のあと、朱雀院は出家を志すが、愛娘・女三宮のことが心配で思いきれない。幼くして母を亡くした女三宮は、光源氏が恋焦がれた藤壺の宮の姪にあたる。父である自分以外に後見人がいない内親王を、朱雀院は誰かに降嫁させようとするが──。 ここを書いているそのときに、夜の内裏に響く女性の悲鳴。中宮様の危機かと思い駆けつけたまひろが見たのは、着衣を袴まで剥がされ震えて泣く女房たちだった。これは大晦日に実際にあった強盗事件で、『紫式部日記』に詳しい。(ドラマでは素早くかけつけた藤式部だが、日記の彼女は現場に行くまでに怖くて同僚と結構わちゃわちゃ揉めている)。 大晦日の夜。仮面をつけ「鬼やらへ! 退散なさしめたまへ!」と路上で叫んでいるのは、疫神や鬼たちを都の外へ追い出すために大声をあげ、武器を振り回す儀式・追儺(ついな)を行う儺人(だぎ)たちである。強盗たちは武器を持った儺人と鉢合わせしたので、盗んだ着衣を捨てて逃げたのか。それを拾い上げて仮面を取ったこの男(伊藤健太郎)は、一体……彼の正体と活躍はこれからだが、長生きしてね。頼むから。と、直秀(毎熊克哉)のことを思い出しながら祈った。 藤壺での強盗事件に驚いて内裏にかけつけた道長が、翌朝ねぎらいにまひろの局を訪れる。 そこでポロリと漏らしてしまうのだ。 「中宮様と敦成親王様をよろしくたのむ。敦成親王様は、次の東宮となられる御方ゆえ」 口にした道長自身が驚いているのは、心に隠していたことをうっかり言ってしまったからか、今まで自分でも意識していなかった本音ゆえか。いずれにしても、彼はまひろの前では油断しきってしまう、己をさらけ出しすぎてしまうのだ。 年が明けて伊周の位が正二位に上げられた。伊周が帝の前でもはっきりと自分は敦康親王の後見、左大臣・道長様は敦成親王の後見と宣言する。道綱(上地雄輔)と実資(秋山竜次)による宮中力関係の解説、公任は隆家(竜星涼)にお前は道長を支える心はあるかと念押しする。敦康親王と敦成親王の立太子をめぐって、政治家たちの権力争いが激化する予感のなか、清少納言が藤式部の局を訪ねてきた。 「光る君の物語、読みました」 かつての親しさはなく、刃のように光るききょうの目にたじろぐまひろ……。 さあ! 清少納言の読書感想はいかに!『光る君へ』は大河ドラマ、来週への引きが大切なのでございます! 次週予告。 行成の驚き、なにかの事件発覚らしい。帝と中宮・彰子の閨。美しいですね。倫子と道長の閨。「殿とゆっくり過ごしとうございます」お、おう……そうよね。清少納言「『枕草子』を消してくれと」挑戦的な表情、まひろとききょうの友情の行方は。伊周「おぉおまえのせいだぁああ」崩壊への予感……! 38話が楽しみのような、怖いような。 ******************* NHK大河ドラマ『光る君へ』 脚本:大石静制作統括:内田ゆき、松園武大 演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう 出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、見上愛、塩野瑛久、岸谷五朗 他 プロデューサー:大越大士 音楽:冬野ユミ 語り:伊東敏恵アナウンサー *このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。 *******************
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