考察『光る君へ』37話 帝(塩野瑛久)「三十三帖か。大作であるな」まひろ(吉高由里子)「まだ続きがございます」光源氏の罪と罰の物語がここから始まる!
三十三帖「藤裏葉」とは
内裏の藤壺に戻った中宮が、一条帝に冊子を献上した。 一条帝「三十三帖か。大作であるな」 まひろ「まだ続きがございます」「光る君の一生はこれで終わりではございませぬ」 三十三帖「藤裏葉(ふじのうらば)」は、どんな巻かといえば、 光源氏39歳。光源氏の嫡男・夕霧は初恋の人である雲居の雁と正式に結ばれ中納言に。娘・明石の姫は東宮に入内が決まった。姫の実母である明石の上は女房として参内することになる。そしてそれを機に、姫を育ててきた紫の上と明石の上は初対面を果たし、長年のライバルであった女性ふたりはお互い良き理解者となれる予感を抱く。 光源氏は冷泉帝(藤壺の宮との不義の末生まれた、表向きは桐壺帝の皇子だが実は光源氏の子)から「太上天皇になずらふ御位」を受ける。そして光源氏の邸宅・六条院で、冷泉帝と朱雀院が揃っての行幸の宴が華やかに催される──。 光源氏はまさに、この世の栄華を極めたのであった。 ここで終われば、めでたしめでたし。それなのにまだ続きがあると聞けば、彰子でなくとも「これからどうなるのだ?」とソワソワするだろう。 考えてございますとまひろは言ったが、実家で文机に向かって書いていた「罪」「罰」。 光源氏の罪と罰の物語が始まるのだ。
日本紀問題
帝のご提案により催される藤壺での『源氏の物語』読み上げ会の華麗さは、かつての中宮・定子(高畑充希)の登華殿のようだ。 宰相の君(瀬戸さおり)により朗読されるのは二十五帖『蛍』。 光源氏36歳。あの六条の廃屋敷で亡くなった夕顔の忘れ形見・玉鬘を引き取り、養女として面倒を見ている。物語を熱心に読む玉鬘に、光源氏は物語についての持論を語る……という場面だ。 「日本紀などは、ただ、片そばぞかし。これらにこそ道々しく、くはしきことあらめ」 (日本紀などは一側面から見た歴史しか書かれていないのですよ。物語にこそ道理にかなった、詳しいことが書かれているのでしょうね) 斉信(金田哲)と公任(町田啓太)が驚いて、 「主上がお読みになるとわかっていて、よく書けたものだ」とヒソヒソ囁いている。日本紀は天皇の勅令の下編纂された、我が国の公式歴史書『日本書紀』のこと。公の歴史書より物語のほうが現実をより詳しく記すと、物語を書く女が世に発信している……と斉信らは受け取った。 歴史は勝者によって作られる。敗者は一方的な悪者とされがちで、勝者にとって都合の悪い要素は排除されたりする。また、歴史書に現実にあったことが正しく書かれているとしても、そのとき関わった人間の感情は物語のほうが細やかに記されるだろう。 『源氏物語』のこの一節を取り上げたのは、同じく歴史を舞台にする大河ドラマならではだ。 『源氏の物語』を読み上げる晴れがましい会とは別の場所で、書き写された『源氏物語』を読む清少納言(ファーストサマーウイカ)……何を思う。
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