「自分の仕事は簡単に替えがきくものではない」ーー「通常営業」を続ける小さな整骨院の自負と葛藤【#コロナとどう暮らす】
緊急事態宣言下でも営業を継続
テレビをつけてもインターネットを開いても、誰もが「ステイホーム」と口にし、多くの人々が自宅にこもる生活を送っている。そんななかで整骨院に通う人は、それぞれに切迫した事情を抱える。島本さんの整骨院に週2回のペースで通う高齢の女性は言う。 「半年前からめまいの症状があって、鍼(はり)治療に通っています。私の場合は鍼など東洋医学が体に合うと感じているので、この院が閉まってしまうととても困ります」 島本さんは「ぎっくり腰や生活に支障が出るほど痛みがある人が多く来院されますね」と語る。 開院には、当然リスクが伴う。自分が新型コロナウイルスに感染する可能性もあれば、患者にうつしてしまう危険もある。あまつさえクラスター化すれば、院の評判を落とし、存続すら危うい。 東京都からの休業要請の対象に整骨院が入れば、島本さんも「休業を考えた」という。4月13日、都が発表した休業要請施設に「鍼灸・マッサージ」「接骨院」「柔道整復」は含まれなかった。医療機関として、「社会生活を維持する上で必要な施設」と認定されたのだ。他業種ではスーパー、交通機関、工場などがある。こうした社会生活の維持に不可欠な業務の就労者を「エッセンシャル・ワーカー」と呼ぶ。
島本さんには「自分の仕事は簡単に替えがきくものではない」という自負がある。 「患者さんにとって、身体を守ってくれる人は代わりがいないと思うんです。『このレストランはおいしくなかったから、次はここに行こう』という感覚では自分の身体を任せられない。たとえ患者さんが10分の1になろうと、来てくれる可能性があるならやらないといけないと思っています」 島本さんの友人が経営する整骨院のなかには、自主的に休業したり、患者の密集を避けるため完全予約制や人員削減に踏み切った院もあった。 そんななか、島本さんはあえて「なるべく普段通りにやろう」と考えた。 「整骨院はただ身体の治療をするだけでなく、患者さんとコミュニケーションをとる場でもあります。自粛生活で人と直接話す機会がなくて、不安に思っている患者さんもいるはずです。なるべく普段通りにして、患者さんに安心してもらう場にしたいんです」 普段通りといっても、整骨院は「3密(密閉、密集、密接)」に陥りやすい空間でもある。 院の入り口にはアルコール消毒液を置き、待合室の椅子を離す。院内の2カ所の上窓は開け放ち、2台の換気機能付きエアコンを常時稼働する。患者が入れ替わる際には、必ずベッドをアルコール消毒する……。島本さんも情報を集めて対策を練った。