防ぐ方法「一つだけあった!」…セブン&アイ、カナダ企業から再びの買収提案‟求められる株価を上げる経営者”
M&A3つの原則に込められたメッセージ
指針は公正なM&Aの3つの原則を以下のように定めている。 ・第1原則:企業価値…望ましい買収かどうかは、企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させるかを基準に判断されるべきである。 ・第2原則:株主意志の尊重…会社の経営支配権に関わる事項については、株主の合理的な意志に依拠すべきである。 ・第3原則:株主の判断のために有益な情報が、買収者と対象会社から適切かつ積極的に提供されるべきである。 指針のどこにも「高い株価が示された提案は受け入れよ」とは書いていない。企業価値の向上に資するM&Aを実行せよ、というのが全編を通じたメッセージだ。 指針は「企業価値」を「企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和」と定義しており、「対象会社の経営陣は、測定が困難である定性的な価値を強調することで『企業価値』の概念を不明確にしたり、経営陣が保身を図る(経営陣が従業員の雇用維持等を口実として保身を図ることも含む。)ための道具とすべきではない」と念を押している。地域社会や地球環境との関係など非財務情報についての重要性は認めつつ「投資家が投資先企業の将来キャッシュフローを予想し、理論株価を算出する際には、こうした非財務情報の将来キャッシュフローの算定に織り込むことや、キャッシュフローの現在価値を算出する際の割引率に反映することで、非財務情報の要素を企業価値の評価に反映する取り組みが行われている」などとして、企業価値の徹底的な数値化を求めている。
セブンは持てる資産を総動員すれば株価を上回ることができる
こうした定量化主義はファイナンスの専門家の好むところであるが、会社法の学識経験者からは、異論もある。将来キャッシュフローの予想や割引率などはあくまで推論の域を出ず、客観性を装いつつ曖昧さも多分に含むからだ。そこで指針の第2の原則が生きてくる。曖昧ではあっても妥当と思えるかどうか、株主に判断させせよというわけだ。 クシュタールとセブンの買収戦に引き戻せば、クシュタールが18.19ドル(同2710円)と出している以上、セブン側もある程度は自社の考える目標株価の水準を提示し、株主の理解を得る必要が出てくるのではないか。 この点にはこんな記述もある。「企業の経営陣は、従業員のスキル、知識、モチベーションなどの人的資本の活用、テクノロジーやビジネスモデルの追求、キャッシュを含む資産の活用等を行いながら戦略を遂行する能力を示すことで、将来のキャッシュフロー創出に対する期待を醸成し、企業価値に対する定量的な市場の評価を形成する」。ここで問われているのは経営力だ。足元の株価はクシュタールに提示価格に届かなくても、持てる資産を総動員すればそれを上回ることができる。そんな期待を市場に確信させることが、唯一にして最善の企業防衛ではないか。
小平龍四郎