防ぐ方法「一つだけあった!」…セブン&アイ、カナダ企業から再びの買収提案‟求められる株価を上げる経営者”
「株価を上げられる経営者」がいま求められている
今、ささやかれているシナリオはこうだ。年内にセブンが2度目の買収提案について断りを入れる。さらに井阪隆一社長ほか数名の経営陣の交代を打ち出し、クシュタールの3度目の提案を封じる。もちろん、株式市場の信頼を取り戻せる人材、端的にいえば「株価を上げられる経営者」を見つけてくることが大前提だ。 クシュタールによるセブンへの買収提案が注目される理由のひとつは、上場企業の経営にとって株価を上げることの重要性、逆に言えば株価が低迷することの怖さをよく示しているからだ。大企業であっても、株価純資産倍率(PBR)が1倍を超えていても、株主にとって十分に魅力的な水準の価格が提示されれば、とたんに買収の脅威に直面する。そういう時代になったということだ。
日本企業は「食事をしたら歯を磨こう」並のことができていない
日本のM&Aの新しい地平を開いたとされるのが、昨年8月に経済産業省がつくった「企業買収における行動指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」だ。これまで企業は買収を提案されてもロクに取締役会で議論もせず、水面下で握りつぶすことも少なくなかったとされる。買収者が敵対的TOBに走っても日本的な風土では受け入れられにくく、株式持ち合いの壁にも阻まれ、成功する確率はきわめて低かった。 M&Aは産業の新陳代謝を通じて経済の成長率を高める。デフレからの完全脱却の道筋も見えてくる。そこで買収提案を受けた際の手続きや原則を明文化したものが、「企業買収における行動指針」だ。発表された当初注目されたのは、「買収提案を受領したら取締役会に付議せよ」という部分だった。ほとんど「食事をしたら歯を磨こう」のようなことを書いてあるようだが、実は日本ではこのわかりきった初動がないがしろにされていたわけだ。
M&Aの是非は「企業価値」によるものが大きい
実はセブンは2020年ごろにもクシュタールから買収提案を受けているという。この時にはさほどの議論もなく、断ったらしい。今回の提案では一転して社外取締役で構成する特別委員会で検討することにしたのは、「指針」の存在ゆえ。当たり前のことでも、正式に文字にしてルール化するコトには大きな意義がある。 クシュタール、セブンの買収戦が注目されるのは、「指針」が目指した公正なM&Aが実現されるかどうかが問われているからでもある。この指針を改めて読むと、筆者がこれまでしつこく書いてきた「株価」でM&Aの是非を決めよとは書いていない。重視されているのは「株価」ではなく「企業価値」。この違いは小さいようで、重要だ。