防ぐ方法「一つだけあった!」…セブン&アイ、カナダ企業から再びの買収提案‟求められる株価を上げる経営者”
ゴールドマン・サックスは敵対的な買収にはかかわらない
この動きをどう解釈すればよいのだろうか。ひとつの読み筋は、投資家はこの買収が成就せず、1株2710円のTOBは近い将来、起きないと予想している。理由はいくつかある。クシュタール側についているとされる投資銀行のゴールドマン・サックスは、原則として敵対的な買収にはかかわらない。また、コンビニエンスストアは日本社会にとって一種のインフラなので、海外投資家から出資を受ける際に事前届け出が必要な外為法上の「コア業種」に分類されている。届け出後に審査を受ける必要があるので、いきなり敵対的なTOBに踏み切ることはできない。 さらに、米国のコンビニ事業の店舗数シェアはセブンが8.5%で首位、クシュタールが3.8%で2位。クシュタールが本当に欲しがっているのはセブンの米国店舗だとされるが、1位と2位の統合が実現するには競争政策の面で高いハードルをクリアしなければならない。この点はセブン側が最初の提案に対して断りを入れた際の理由のひとつにも挙げられている。セブン関係者は「クシュタールは米国の規制をどう考えているかはっきり示していない」と語る。合併が認可される場合の条件として店舗の一部売却が必要になるかもしれない。売却候補が現在のセブンの店舗になるのか、それともクシュタール側なのか。それが提案を検討するにあたっての重要な要素になるという。
経営陣の刷新に踏み切れるか…コーポレートガバナンスが問われている
実際に買収が実現しないとしても、一連のやり取りを通じてセブン取締役会は株式市場に大きなコミットをしたという事実は残る。14.96ドル(1ドル=149円換算で2229円)を「著しく過小評価」としたことだ。2度目の提案額である18.19ドル(同2710円)も押し戻すとすれば、ではセブンの取締役会は同社の潜在的な企業価値はどの程度で、それをいつまでに、どのように達成するのかについて、説明を求められるだろう。投機的な取引が起きないよう具体的な数字を挙げることは難しいだろうが、少なくとも近い将来株価が2710円を上回りそうだという強い期待を市場に醸成する必要がある。 何をなすべきか。懸案だったスーパー売却に踏み切り中核のコンビニ事業に特化する方針を表明してもなお株価が弱含む現状を鑑みれば、市場が懸念しているのは「コングロマリット・ディスカウント」、すなわち事業の幅を広げすぎて企業価値が伸び悩む状態ではないかもしれない。むしろ、コンビニに特化してもなお企業価値を増やせないことへの不安こそが、株安の背景にある。とすれば、セブンがなすべきことはただひとつ。経営陣の刷新だ。そこまで取締役会が踏み切れるかどうか。問われているのは、セブンの企業統治(コーポレートガバナンス)の有効性にほかならない。