ほろよい余話 滋賀・木之本宿を照らす「七本鎗」の青き杉玉
杉玉は、酒造りの神様として信仰される奈良・大神(おおみわ)神社を発祥として、古くはご神山に生える杉の木のご神威にあやかり、杉の束を酒屋などで吊るすようになったことが始まりとされている。 緑の杉の葉がやがて枯れて茶色くなる様は、酒がやがて熟成する頃合いを現すともいわれる。 蔵によっては、酒造りの合間をぬって杜氏(とうじ)や蔵人が手作りすることもあり、今年も無事に酒造りが出来る喜びのしるしともいえる。 湖北・木之本の銘酒「七本鎗」を醸す冨田酒造では、今季一番の酒が搾られる頃を見計らって、蔵元と親しい人々が集い、年に1度、杉玉づくりが行われている。 杉玉の材料となる杉の葉は、自分の手で暮らす人が集まることから〝どっぽ村〟と呼ばれ親しまれている長浜市小谷上山田町の山林から採取されている。山の持ち主が切り出してくれた杉の木から枝葉を一本一本剪定し、軽トラックがいっぱいになるまで採取して、今年は2台分ほどの杉の葉が蔵に運び込まれていった。 杉玉の作り方は、まず中心となる部分にワイヤーなどで網状にした核をつくる。その網目に剪定した杉の枝葉を放射状に隙間なく刺し込んでいき、最終的にハサミや葉刈り機で形を整えて球体にする。 七本鎗の杉玉は、他と比べても随分と大きいサイズで、朝から一日がかりで作られている。 この日も、地元の人たちが入れ替わり立ちかわり手伝いに訪れ、小さな子どもたちも一緒になって、終始ほのぼのと作業は進んでいた。 聞けば、この取り組みも今年で13年目。毎年、この日を楽しみに遠方から来ている人たちもいて、すっかり地元の恒例行事となっている。今年は例年より参加者が多く、早い完成となった。 完成したばかりの杉玉を、軽トラックに慎重に積み込んで、蔵の玄関へと運びこむ。男性5人がかりで、昨年の杉玉を降ろしていく。行き交う人々も足をとめ、その姿に見入っていた。軒先に、ようやく真新しい杉玉が掲げられ、拍手が湧いた。青々とした杉玉が、街道を誇らしげに照らしていた。 ■松浦すみれ
まつうら・すみれ ルポ&イラストレーター。昭和58年京都生まれ。京都の〝お酒の神様〟をまつる神社で巫女として奉職した経験から日本酒の魅力にはまる。著書に「日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ」(コトコト刊)。移住先の滋賀と京都を行き来しながら活動している。