宝石のような小さなガの知られざる多彩な世界(神保宇嗣/チョウ・ガ研究者)
小蛾類の中には風変わりな形のものもいる。ここで示したニジュウシトリバガの仲間はその筆頭格で、それぞれのハネが根本近くまで割れて羽毛のようになっている。野外で観察していると、たしかにちゃんと飛んでいるのだが、なぜわざわざこんな形に進化したのか、私はその理由を思い浮かべることができない。 もう一つ、風変わりな形をしている小蛾類がコバネガの仲間である。ふつう、チョウやガの仲間の成虫の口はストロー状で、水分のほか花の蜜や樹液などを吸う。ところが、コバネガの成虫の口は、一般的な昆虫と同じくあご状のかむ口をしており、花粉やシダの胞子を食べている。コバネガは、現生のチョウとガの仲間でもっとも古い系統で、吸う口が進化するよりも前の姿を残しているのだ。
そんな生きた化石のようなコバネガの仲間だが、日本にも20種以上が分布していて、成虫は春から初夏にかけての昼間に活動する。なかでも比較的広くみられるヒロコバネの仲間は、幼虫が食べるジャゴケという苔類が生えている湿った場所で周辺を低く飛んでいるが、慣れないとその姿を見てもガだと気づかないかもしれない。 小蛾類の魅力の一つに、幼虫のさまざまな生活があげられる。葉の表面をかじっているもののほか、葉を糸で綴った巣を作るもの、体をすっぽりおおう巣を背負って移動するものなどがいる。巣を背負って移動する幼虫として有名なのはミノムシで、実はミノガという小蛾類の仲間の幼虫である。
さらに、小蛾類の中でも微小な仲間の幼虫には、葉の内側をトンネルを掘り進むようにして食べ、葉に独特の食痕を残すものが多い。ガのほか、一部のハエ、ハチ、甲虫なども含まれる。このような虫は、一般には「字書き虫」「絵描き虫」と呼ばれ、専門的には潜葉性昆虫という。日本には、潜葉性の小蛾類だけで500種以上は知られているのではないかと思われる。
小蛾類を調べる
小蛾類を野外で探す際には、夜間に灯りをつけて虫を集めるいわゆる灯火採集のほか、昼間の調査も重要になる。灯火採集は見晴らしの良いところでやるのが定石だが、小さなガは、あまり飛翔力の強くない種が多いので、森の中など周囲を囲まれたところを選ぶことも多い。昼間は、昼間活動する種の成虫も探しつつ、さまざまな植物を観察して葉の潜り痕や巣を探して幼虫を採集し、飼育羽化させることも多い。