宝石のような小さなガの知られざる多彩な世界(神保宇嗣/チョウ・ガ研究者)
7/13から開催! 東京・上野の国立科学博物館で開催される特別展「昆虫 MANIAC」の監修者の1人である神保宇嗣氏がとっておきの話をお届けします。
夜になって灯りがつくと、どこからともなく光に引きよせられてさまざまな昆虫がやってくる。夜行性のものが多いガも、灯りにやってくる常連の一つだ。みなさんの中には、大きなガが灯りの周りにいて近づけなかった、という経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。一方で、灯りには、大きな昆虫以上にガを含め様々な小さな昆虫もやってくるのだが、気づかれることはなかなか無い。そんな人目に触れることの少ない、小さなガのマニアックな世界を少し紹介したい。 ギャラリー:特別展「昆虫 MANIAC」の見どころ マニアックなムシ大集合! 写真9点
「小蛾類」とは? 世界最小のガは?
チョウやガは、分類学的にはチョウ目という一つのグループとされ、世界からは約16万種、日本からは6500種以上が知られている。このうちガの仲間は、大型の種を多く含む「大蛾類」と小型の種を多く含む「小蛾類」に分けられる。ここで紹介するのは後者の小蛾類で、日本からは3300種以上が知られており、ハネの長さが1センチ以下の種が大勢を占める。なお、両者は大きさでは無く系統によって分けられているので、大型の小蛾類も小型の大蛾類もいる。 では、最小のガはどれくらいの大きさなのだろうか。2021年に、「世界最小のガは何か?」というタイトルの論文が出版された。それによれば、知られている限りで最小の種は、ハネの長さが1.2ミリほどだという。甲虫やハチなどでは体長が1ミリ以下の超微小な種がたくさんいるので、それと比較すれば大きいと言う虫好きもいるが、一般的にはとても小さいと言えるだろう。
多彩な「小蛾類」とその魅力
実際の小蛾類の例をいくつかみてみよう。まず、前翅にきらびやかな斑紋を持つ種が目立つ。大型のチョウやガでは、同種を目で見て探すためや、鳥などの天敵に対して毒を持つことのアピールなどのために派手な模様をもつことがあるが、小型のガがなぜ派手な斑紋を持っているのか、その理由はよくわからない。 一方、特に微小な種では、後翅が非常に細くなり、周囲に長い毛(縁毛)をそなえるものがいる。このような細くて毛が長い翅は、さまざまな微小な昆虫で見られる。体が小さい虫では、飛んでいる時に空気がまとわりつき、空中を泳ぐようになると考えられている。この細くて毛の長いハネは、この「泳ぐような飛翔」に適していると考えられている。