産経新聞の加藤前ソウル支局長が会見(全文1)朴政権の最大のタブーと感じた
韓国の朴槿恵(パククネ)大統領に関するコラムで名誉を毀損したとして韓国で起訴され、その後の裁判で無罪となった産経新聞の元ソウル支局長の加藤達也氏が16日、東京の外国特派員協会で記者会見を行った。 【中継録画】産経の加藤元ソウル支局長が外国特派員協会で会見 加藤氏は、2014年4月のセウォル号沈没事件が発生した当日、朴大統領が元側近の男性と会っていたという「うわさ」をウェブ版の記事で紹介した。この内容が大統領の名誉を毀損したとして、ソウル中央地検に起訴されたが、ソウル中央地裁は2015年12月、加藤氏に無罪判決を言い渡した。
産経コラム問題の経緯
司会:お願いします。 加藤:皆さん、こんにちは。産経新聞の元ソウル支局長を務めておりました加藤達也でございます。現在は国際報道の取材現場を離れまして社会部の編集員をしております。本日は伝統あるこの協会の、このような会見の場所にご招待をいただきまして、大変光栄に存じます。こうした機会をいただいたことに対して大変感謝を申し上げます。そして本日は私がソウル特派員当時、私の身の上に起きた事実関係について、そして現在の朴槿恵政権、そして朴槿恵大統領個人をめぐって起きているさまざまな出来事について私なりの考えをお話ししたいと思います。 本題に入ります前に、私が韓国の朴槿恵政権下で韓国の検察から出国禁止の上、取り調べを受けました。そして起訴され裁判を受けたというこの間のことについて、本当に特派員協会の皆さん、気持ちを1つにして韓国政府に働き掛ける声明を発表してくださったことに対して心から感謝を申し上げたいと思います。 通訳:失礼しました。先を読んじゃいました。 加藤:そのあと、その後もこの声明を出してくださったあとも、この私をめぐる問題について、そして韓国の言論の状況について、皆さんが大変高い関心を持っておられたことに対して、非常に感謝を申し上げたいと思います。そうしたジャーナリストは韓国にもたくさんいたわけですけれども、皆さんのジャーナリストとしてのご見識、それから行動力に深く敬意を表したいと思います。 話は2014年の8月から2015年の12月にかけての500日間に移りたいと思います。この間、私は朴槿恵政権と戦ってまいりました。当初は戦いの相手は韓国大統領府の広報を担当する主席秘書官ら、大統領府のスタッフ。そしてその後は朴槿恵政権側からお金を受け取ってさまざまなテーマについて嫌がらせ活動をしている団体、こうしたものが加わってきました。この団体が、まったく民間団体で第三者なんですが、この団体が告発状をソウルの検察庁に提出しました。取り調べは非常に長時間にわたりまして、それ自体がジャーナリストにとっては大変大きな圧力になりました。その場で検事が私に求めてきたものは、謝罪とそれから記事の取り下げ、この2つでした。 その後、検察が起訴しまして、戦いの舞台は公判、法廷の場に移りました。日本などの民主主義国家では本来、裁判所というものは戦いの相手というよりは法律と証拠を冷静に審理しまして判決を下す、真相解明と正義実現の場であるはずなのですが、ソウルの裁判所は審判のためというよりは、気に入らない日本人のジャーナリストを懲らしめるという性格の非常に強い公判廷だったと認識をしています。 皆さん、すでによくご存じだと思いますけれども、私が書きましたコラムは、基本的には韓国の国家における最高権力者の日々の動静をテーマとするものでした。日本で読まれることを前提として日本語で書かれた記事を問題視して、一国の国家権力が名誉毀損で民間人の一記者に刑罰を科そうとする、この発想そのものが本質的に近代的価値観から著しく逸脱していると私は思ったのであります。その結果、朴槿恵政権は日本をはじめ各国のメディアや団体、ついには同盟国であるアメリカの政府からも制度的な問題点を指摘されるようになってしまいました。 私は500日間の裁判の間にいろいろなことを考えたんですが、その中で、朴槿恵大統領自身がもしかすると産経コラム問題についての、さまざまな政府としての判断や対応、直接これに関わってないのではないかなと、そういう印象を持つようになりました。もしかすると朴槿恵大統領は、ご自身の判断ではなく周辺にいる極めて有力な助言者が決めたシナリオどおりに行動し発言をしているのではないか、そういう可能性も私は思い浮かべました。