哲夫(笑い飯) 仏教マニア、塾経営者、農家、花火解説者…お笑い以外の仕事を考えたことがない自分が<六足のわらじ>を履くようになったワケ
◆諦めたら仕事が舞い込んだ いつの間にか六足のわらじを履いていますが、僕自身はお笑い以外の仕事をしようと考えたことは一度もないんですよ。どれも《好き》が高じてこうなっただけ。好きなものはとことん追求してしまう人間なので、それが結果的に仕事にもつながったという感じです。 仏教マニアであることも、漫才に支障が出るかもしれないと思って最初は隠していたんです。ところが、テレビ番組の企画で楽屋を抜き打ちチェックされ、ネタ帳に般若心経を写経しているのが見つかってしまった。 そしたら、事務所の出版部門が「仏教の本を出しませんか?」と。さすが吉本、徹底的にイジってくるなとあきれましたよ(笑)。それなら受けて立とうと般若心経の本を書いたところ、これがものすごく売れまして……。 一番驚いたのは僕です。バレたなら仕方ないと諦めた途端、本の執筆や講演など次々に新しい仕事が舞い込んできたんですから。でも同時に、ああ、そういうことかと得心もしました。 仏教では、「諦(あきら)める」と「明(あきら)かにする」の語源は同じ。「諦めたら明らかになり、真理が見える」という意味です。つまり僕も、「バレてもええわ」と諦めたことで心を覆っていた余計なものが取れ、本当の自分が明らかになったんだと思います。 仏教に詳しいというイメージが漫才の邪魔になるのでは、という心配も見事に外れました。バレたからといってウケ方も変わらない。仏教がお堅いと思われがちだからこそ、ボケが面白くなることもある。むしろ人に笑ってもらえるジャンルが増えたな、と。そんな具合にすべてがうまくつながり、仕事の幅も広がっていったんです。
◆「よっしゃ、イケる。俺って天才なんちゃうか?」と つながりといえば、10年ほど前から大阪市内で経営している小中学生向けの学習塾「寺子屋こやや」も、いくつものピースがピタリと合わさって生まれたもの。 そもそもは、塾講師の職を失い困っていた大学時代の友人に、「俺が出資するから塾やらへん?」と持ちかけたことが発端でした。その代わり、どんな家庭の子も通える低料金の塾にしてほしいと頼んだんです。 「かしこ」(関西弁で賢い子の意味)をもっとかしこにする進学塾ではなく、全体のレベルを底上げする補習塾を作りたかった。みんなが少しずつ賢くなり切磋琢磨し合うチームになったら、いつか地球温暖化を根本から解決してくれる天才だって現れるかもしれません。 実は僕、次の世代に美しい地球を残すために何かしたいと、ずっと考えていたんです。だって僕が子どもの頃は真夏でもグラウンドでサッカーをしていたのに、未来の子どもたちができないのはつらいじゃないですか。チャンスが来たと思いました。 まだ芽が出ていない大卒の若手芸人に講師を務めてもらえば、彼らの収入にもなる。次々に浮かぶアイデアがすべてつながったとき、「よっしゃ、イケる。俺って天才なんちゃうか?」と思いましたね。(笑) 子どもたちの親御さんが支払う塾代は、大阪市の小学5年生~中学生を対象にした塾代助成制度(上限月1万円)を活用して、月5000~6000円ほどです。大手の学習塾だと月6~7万円かかることもありますから、かなりリーズナブル。 若手芸人たちの面白くてわかりやすい授業のおかげで、子どもたちは楽しみながら苦手を克服し、進学実績も好調です。 今は信頼できる後輩に運営を任せ、僕は経営者という役回り。儲けという意味では、マイナスこそあれプラスはなし。報酬はもらっていません。でも、いいんです。これは子どもたちへの投資ですからね。 (構成=野田敦子、撮影=田原由紀子)
哲夫(笑い飯)
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