なぜ球数制限だけが導入されたのか? 日本の野球育成年代に求められる2つの課題
今の時代だからこそ、野球をする価値がある
リーガ・アグレシーバを広める上で大切にしているのが、単純にリーグ戦を行うだけにはとどまらないことです。「アグレシーバ」はスペイン語で「積極的に」という意味で、投球制限、木製バットや低反発バットの採用、スポーツマンシップ講習、指導者が学び続ける機会の確保など、選手たちが成長できる環境を整えています。まだまだ途上ですが、リーガ・アグレシーバに参加校が増えているのは、高校野球における指導者の価値観がそれだけ多様化している証左なのではないでしょうか。 今、社会の環境や世の中の価値観は、劇的なスピードで変化しています。同時に進んでいるのが少子高齢化ですが、深刻な野球人口減少は8倍の割合で進行しているというデータもあります。 では、野球の価値自体は変化しているのか。2023年WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で侍ジャパンが優勝して大きな感動をもたらしてくれたように、昭和の時代からまったく変わっていないと思います。それなのに競技人口が減っているということは、何らかの理由があるからでしょう。 常に変化し続け、混沌とした時代だからこそ、逆に野球をプレーする意義が高まっているのではと私自身は考えています。試合を通じ、選手たちは成功と失敗を数多く体験できるからです。真剣勝負の中で勝ち、負けを繰り返し、「次はどうすればうまくできるだろうか」と考えていく。体を動かし、喜怒哀楽を感じながら、スポーツマンとして成長していく。野球には、人々を幸せにできる価値があると心の底から信じています。だからこそ、関わる人たちがより成長できるような環境を整えていきたい。 (本記事は東洋館出版社刊の書籍『育成思考 ―野球がもっと好きになる環境づくりと指導マインド―』から一部転載) <了>
[PROFILE] 阪長友仁(さかなが・ともひと) 1981年生まれ、大阪府交野市出身。一般社団法人Japan Baseball Innovation 代表理事。新潟明訓高校3年生時に夏の甲子園大会に出場。立教大学野球部で主将を務めた後、大手旅行会社に2年間勤務。野球の面白さを世界の人々に伝えたいとの思いから退職し、海外へ。スリランカとタイで代表チームのコーチを務め、ガーナでは代表監督として北京五輪アフリカ予選を戦った。その後、青年海外協力隊としてコロンビアで野球指導。JICA企画調査員としてグアテマラに駐在した際に、同じ中米カリブ地域に位置する野球強豪国のドミニカ共和国の育成システムと指導に出会う。大阪の硬式少年野球チーム「堺ビッグボーイズ」の指導に携わりつつ、同チーム出身の筒香嘉智選手(当時横浜ベイスターズ)のドミニカ共和国ウィンターリーグ出場をサポート。さらには、2015年に大阪府内の6つの高校と高校野球のリーグ戦「リーガ・アグレシーバ」の取り組みを始め、現在では全国で160校以上に広がっている。2023年には一般社団法人Japan Baseball Innovationを設立し、野球界に新たな価値を創造する活動をさらに進めていく。
文=阪長友仁